私の持っていた小学館の人体図鑑の後ろの方に、その「ホッテントット」の特徴的な絵が載っていたと記憶している。
それは、お尻が大きく後ろの方に突き出た部族の女性の姿だ。
現在「ホッテントット」は差別用語らしく、使うのは気が引けるが。
父に言われて気になり出した。
鏡を見て見ると確かに、周りの子達より私のお尻は横から見ると脂肪をタップリため込み、後ろに突き出ている。
こんな体型になった理由を自分なりに考えてみると、子供の頃から歩く事が嫌いで、父の背中に負ぶさってばかりいた事にも原因があるような気がする。
体中の脂肪が、ぶら下がっていた私のお尻に集中して、溜まってしまったのではないか。
中学生の時に誰かが取ってくれた写真がある。遠足の時の写真なのだが、皆ジャージを着用している。
当時のジャージは現在と違い、ハリのないタラタラとした素材で体に貼り付き、ボディラインがハッキリわかってしまうような、そんな質の悪いものだった。
そのジャージを着た私が歩く姿を横から写された写真…お尻が大きく目立つ。恥ずかしい。
20歳の頃働いていた職場では、赤い制服を着用していたが、スカートはタイトなものだった。
私はカウンターで仕事をしていたが、私の後ろの席にはロボットのような体格の大柄で陽気な上司が座っていた。
ある日、後方からその上司が私に声をかけてきた。
「〇〇さんはカイケツだな」と。
カイケツ?思い当たるのは当時人気の力士「魁傑」だが、いくら何でも力士ほど太っているわけでもない私。
困惑している私を見て上司は「頭にデをつけてみて」というので、カイケツの頭にデを付けてみる。何気なく声に出した。
「デカイケツ…でかいケツ?!」
悔しいことに、悟った瞬間、上司は大爆笑。
現代なら、間違いなくセクシャルハラスメントだ。
そんなお尻を抱えたまま、何十年と人生を歩んできた。
もう、お尻が大きかろうがどうだろうが、どうでもいい年齢に達した。
しかし数年前、職場の同僚から「年齢と共にお尻がハの字に広がる」という話を聞いた。どうやら、私のお尻を観察してからのインスピレーションに基づく指摘の様に感じられた。何か悔しい。
ここに来て、その悔しさが「このお尻何とかしたい」と言う気持ちに火がついた。
その昔、母がワイドショーで仕入れたらしい「脂肪揉み出し法」を実践していた
事があった。
母はおへそを中心とした腹回りに脂肪がついていることを気にしていたのだ。
その方法とは、言葉通りひたすら揉むのである。
脂肪をまるごとつかんで「握っては緩め、握っては緩め」をひたすら繰り返すのみ。力は要らない。脂肪を燃やしたい部分を狙い撃ち。
母はドラマを見る時は、ずっとお腹をニギニギしていた。
すると数日経って「ちょっと触ってみて」と母に言われ、ニギニギを続けたお腹に触れると、何とお腹がプニャプニャに柔らかく変化していた。
さらに数日経つと母は、「最近やたらおトイレに行きたくなって困るんだから」と言い出した。
明らかにお腹の脂肪が減っている事が、目視で確認できた。
脂肪は燃えると、水と二酸化炭素になると聞く。おトイレの回数が増えたという事は、燃えた脂肪が体外に排出されたという事だ。
その後、ある一定の結果を得た事と、手が疲れ過ぎたと言う理由で母は「脂肪揉み出し法」をやめてしまった。結局途中で辞めてしまったので、母のお腹は元の木阿弥となった。
そんな経緯を見て、「脂肪揉み出し法」の効果を知っていたので、私はお尻に実施してみようと考えた。
「キューティーハニーみたいな小さなお尻になってやる!」
いい年をして、急に大きなお尻とおさらばしたくなったのだ。
私は布団に入ってからの寝付きがいつも悪い。それを逆手に取り、「脂肪揉み出し法」は寝ぎわに決行。
片尻モミモミ100モミモミ、合わせてモミモミ200揉み。毎夜欠かさず実施した。
未だかつて、こんなに一つのことに集中して、ちゃんと出来た事があったであろうか。否。
今回の私の集中力は、我ながら半端なかった。積年のお尻への思いが大爆発。頑張った。
その結果、やはり母のお腹同様、プニャプニャのやわらか~いお尻になった。
そして、暑い時にはやたらお尻が汗をかく。明らかにお尻の脂肪が燃焼している。そして、ジョギングを始めた事もあって、ユサユサ上下に揺れていたお尻はいつしか揺れることも無くなった。
今では横から見ても、もはや「ホッテントット」の影もなく、何故か太かった足の裏のセルライトもいつしか消え、副産物的に足も細くなった。うれしい。
ヒップのサイズは残念ながら、キューティーハニーとまでいかなかったものの、見苦しさが無くなっただけで充分だ。
全体の見た目はほぼ変わらないのに、体重は2キロ程減った。お尻の脂肪が2キロだったということか。随分ため込んでいたものだ。
こうして、半世紀以上抱えていた私の「デカイけつ問題」は見事に「デ」の字が取れて解決した。
努力は必ず報われる。
めでたし、めでたし。