先ずは大沼方面へ。やや登りの道が続く。
周辺はナラの木が多く、ナラの枯葉とドングリで地面が覆われていた。今年は昨年と違いドングリ豊作の年らしい。枯れ葉をかき分けたようなシカの足跡があった。息子は森の案内人の様に目ざとく何でも見つける。
そんな小道を登り続けると、やがて眼下に大沼の景色が広がる。
先ほどのウトナイ湖と比べると、沼はドンヨリとした雰囲気で、紅葉もいまひとつ。
湖面に釣り人の赤いカヌーが滑るように現れたのを眺めたりしていたが、少し前から周辺の木立や草むらの中から、何やら生き物の気配を息子も私も感じていた。時折、小枝の折れる様なパキッと言う音や、微かな音がするのである。
空は曇天。公園の入り口付近は家族連れなどがいたけれど、奥の方まで来る人は居ない。私達2人だけだ。
次第に不安な気持ちがつのり、「何か怖いね」と言い出した時、息子が足元に動物のフンを見つけた。
黒い土饅頭のような大きなフン。
それは、つい最近NHKの番組で見た、北大のヒグマ研究グループ、通称クマ研の部員が集めていたヒグマの糞と全く同じ色、形、大きさだった。たくさんの虫が群がっていた。表面がしっとりしているところを見ると、そんなに古いものでは無い。
私達はすぐ様その場を立ち去った。
私は坂道を足早に下りながら、念の為クマ研の部員たちが熊よけに叫ぶ「ポイポーイ!」と叫んでみた。
北海道は本当にどこにでもヒグマが居るものだとつくづく思った。
平地に戻ると、人もまばらにいて安心した。気を取り直して、今度は木道の敷かれた小沼の方へ向かう。小沼の方が家族連れやカップルが多かった。
木道の下のぬかるみに、また様々な動物の足跡があった。シカ以外にも小動物の足跡があり、ウサギだろうかキツネだろうかと想像しながら歩くのも、また楽しかった。
木道は、厚みの薄っぺらい板が渡してあり、軽い私たちでも、歩くと随分板がしなった。「耐荷重はどれくらいなんだろう」息子が不安げにつぶやく。しなる板に折れやしないかとヒヤヒヤしながら渡るのも、何だか楽しかった。
小沼の方は、大沼よりも紅葉が美しく感じ写真に収めた。
沼の周辺を歩くと、沼の水面近くに長く張り出した枝が、カワセミを連想させた。この枝に止まって沼の魚を狙うように思えたのだ。
結局、カラ類には会えたけど、カワセミには残念ながら会えなかった。
錦大沼公園を後にして、昼食を食べる為に、野鳥観察も出来るThe Bird Watching Cafeへ行った。そこはネイチャー・フォトグラファーの嶋田忠氏のギャラリーも併設された場所だ。
店内は、カウンター席とボックス席を設けてあり、こじんまりとしているが、大きな窓がしつらえてあり、中庭のバードテーブルをよく見渡せる様になっていた。店の奥には観察小屋もあった。
小雨も降ったりする中、小鳥は来るのかしらと、主の居ないバードテーブルを眺めながら昼食をとっていると、常連らしきキジバトが入れ代わり立ち代わり合計5羽程と、1羽のカワラヒワが飛来した。
食事を取りながら、室内でのバードウォッチングは中々乙なものだった。
帰り際には嶋田忠氏のギャラリーで、今日会えなかったカワセミの姿を、ビッグサイズの写真でじっくり眺めた。
店を出て、息子の車で札幌まで帰ろうとスタートしてしばらくすると、息子がズボンの太ももあたりにダニを発見した。私も上着を見回すと5ミリほどのダニが付いていた。急遽コンビニの駐車場に車を止め、慌てて二人で車から出て、ダニを払うことしばし。
足元から這い上がってきたものか、木立の上から降ってきたものか、噛まれたら大変とばかりに、上着をバサバサしたり、足元から腰まで叩いたり、傍から見たら、大の大人ふたりが何をしているのかと、不思議に思われたことだろう。
ダニは夏だけの事だと思っていたら、秋も油断ならないのだと初めて知った。
最後はとんだダニ騒動があったけれど、私のプチ旅行は楽しい余韻を残したまま、満足のうちに終わった。
おわり