しかし、2回目に訪れた時に、少し列車の路線の名前や下車駅等を確認し、次に来る時は、娘の手を煩わせないようにしたいなと思ったのだった。いつまでもお世話になってばかりでは駄目だ。子供じゃあるまいし。老人だけど、甘えていちゃいけない。私より先輩の方々だって、お一人でネットを駆使して、海外にだって行っているのだもの。やらなきゃいつまでも、できない事になってしまう。

私の隣には、誰かが忘れたクロミちゃん。これを忘れていった子、泣いていないかしらと気になった。
1月の下旬、娘から2月に入ったら忙しくなるとラインが入り、娘と遊ぶには今しかない!と思った。娘も同じ気持ちの様だった。
チャンス到来!今回こそは、航空券の購入から、娘の家の玄関まで自分の力だけで行こうと思ったのだ。娘の予定を確認し、3泊4日の日にちを決めた。
先ずは航空券の購入だ。
スマホで「格安航空券」と検索してみると、トップに航空券が買えるサイトがズラズラ出てくる。
少し前に、息子が航空会社じゃないところでチケットを買ってしまい、「余計な手数料がかかって失敗した」という話を聞いていた事を思い出した。
冒頭に出てきたサイトの口コミを見てみると、やはり「余分な手数料がかかった」と言う苦情があった。
危ない危ない、ここから買っちゃ駄目だと再確認。息子の失敗が、私を救った。話を聞いていなければ、同じ轍を踏む事になったところだ。
格安の航空会社は色々あるが、よく聞くのはピーチ。早速ピーチ・アビエーションのサイトを開き、日程と安い便を選ぶ。すると3段階の値段が出てきた。ミニマム、スタンダード、スタンダードプラス。どうしたら良いのか…一番安いものにしようかと思ったけれど、何やらスタンダードにした方が色々安心のような気がして、往復券をそれにした。
出発の日にちと時刻を誤っては大変!穴が空くほど何度も確認してから、最終画面をタップしたのだった。
こういう事に不慣れな私にとっては、たったこれだけの事が、スリルとサスペンスに満ちた出来事なのだ。ドキドキしながらも、買えた事が先ずうれしい。
次は成田空港から娘の家までのルートをスマホに尋ねる。出てきた回答は、成田から京成スカイライナーに乗って、山手線に乗り換え、更に乗り換えるというものだった。
このルートで間違いが無いか、念の為、娘に確認すると、山手線に乗り換えなくても良いルートがある事を教えてもらった。乗り換え1回で娘の町まで行けることが分かった。
最後に下車駅から娘の家までのルートをグーグルの地図で確認。
娘の住む町の道は、私の住む札幌の町と違い複雑だ。
札幌の街並みは碁盤の目の様に道が並んでいる。単純な私にピッタリの町。しかし、娘の町は、何度通っても迷路のようで覚えられない。しかし、スマホにはナビがある。行けそうだ!
アナログ派の私は、小さなメモに成田到着後の路線や乗り換え駅、運賃等をメモし、直ぐに確認出来るようにしておいた。あらかじめクレジットカードに付いているSuicaにいくらのお金をチャージしておけば良いかも大雑把に計算した。これで安心。
北海道から関東圏の娘の家まで行く。他人には、ちっぽけな事だと思われるだろうが、これが私にとっては「大冒険」。ちゃんとできるかな?不安とワクワクがこみ上げる。後はお天気が良ければ良いなあと思う。
出発の当日は朝からのんびり荷物の準備。飛行機は19時45分発の便だから。
午後からは、お出かけの時間が迫るに従い、なんだかソワソワしてきた。ちゃんと予定通りにいくかな?
私も心配性だが、それを上回る心配性の夫にせかされて、午後4時15分に家を出た。
夫はお留守番。朝はチラついていた雪が、夕方にはありがたいことに収まった。
家の直ぐ側に空港行きのバスがあるのだが、減便されて、残念ながら夕方の便は無い。札幌駅からJRで、新千歳空港へ行かなければならない。
何年ぶりかの列車。私の世代はついつい“汽車”と言いがち(笑)。
JRなどほぼ利用することが無い。
札幌駅に着くと、キップ売り場に3種類の券売機。ここが意外にも鬼門だった。
これだ!と思う券売機の前で一度チャレンジするも挫折。駅員さんに尋ねてやっとクリアー。有り難いことに、空港行きの便はたくさんあるので、良かった。雪が降らなかったことも良かった。降ったら遅延の恐れがあるし、鹿との衝突等の不安要素もあった。結果的に、何も無くて、万々歳。
JRの駅から徒歩で新千歳空港へ移動して、飛行機の搭乗券も発券できた。
手荷物検査も難なく通過したが、冬靴がブーツだった為、くるぶしまで隠れる靴は脱がなければならなかったのが、ちょっと面倒だった。
あとは飛行機に乗るだけ。
待合室に腰掛けながら、家から握ってきた梅おにぎりを食べた。

私の隣には、誰かが忘れたクロミちゃん。これを忘れていった子、泣いていないかしらと気になった。
飛行機の座席は窓側を取った。けど…夜のフライト。景色は黒とグレーのモノトーン。でも、滑走路は誘導灯が闇の中に浮かび上がり、緑や赤、青や黄色のライトがどこまでも続き、幻想的で美しかった。
上空に行った時、広いエリアの町の明かりが突然消えたり点いたりして、不思議だなぁと思っていたら、何のことはない。景色が、厚い雲に隠れたり現れたりしているだけだった。
海上に出たら、あとは真っ暗闇。と言うか、窓が鏡のように私の顔と機内の様子を映す。
隣はアジア系の若い男性だった。私の視界に入ってくる彼の行動が気になった。引っ切り無しに鼻の辺りに指を持っていく事を繰り返している。鼻でもほじっているのではないかと、嫌な気分だった。
ふと、鏡の様になった窓を利用して彼の行動をさりげなく確認してみると、乾燥しているのか唇の皮をむいているだけだった。鼻ほじりを疑ってごめんなさい。リップクリーム、私持ってるけど、いささか貸すわけにもいかない。そう思っていると、散々皮を剥いたあとで、リップクリームを塗っていた。「最初から塗っときなさいよ!」密かに心の中でツッコミを入れた。
成田に到着して、スマホの教え通り京成スカイライナーに乗るべく切符を買う。運賃の他にライナー券(特急券)1300円がかかるという事が当初良く理解できなかった。運賃はSuicaから支払うと13円安い1267円になるというので、Suicaを利用した。合計2567円。今考えるとすごく高いが、その時はこの列車しか無いと思っていたから何も思わなかった。後から半額以下の安い路線があることを知って、ちょっと悔しい思いをした。
ホームでウロウロしていると、駅員さんが「全席指定ですから」と言って私の切符を見て「2号車へ行ってください」と言った。
2号車へ行ってみると、若い夫婦らしき一組が座っていた。私はその人たちの前の席に座った。2号車はたった3人きり。指定席も何も…笑える程のガラガラで出発。
日暮里で降りて乗り換え、駅名を一つ一つ確認しながら娘の家の最寄り駅へ着いた。娘は駅に着いたら連絡するようにと言ったけれど、どうしても最後まで一人で行ってみたいとお迎えを断った。
時刻は午前0時まであと15分になっていた。
スマホのナビに娘の住所を入力すると、2本のルートが出てきた。最短コースが15分。これで行こう。ゴールは0時ジャストになるはずだ。ナビに従って最短コースを選んだはずが、いつの間にか20分のコースの方に入っていた様だ。途中走ったのだけれど、到着したのは0時を5分以上過ぎていた。娘の家のチャイムを押して、ゴールイン!一人で出来た。
ちっぽけな冒険だったかもしれない。けれども、私は大満足だった。
久々に会った娘としっかりハグをした。