確か40歳ちょっと過ぎた頃だったから40年も前の話だ。
ちょうど一回り年長の医師と知り合いになった。
別に体調を悪くして診てもらったのではなく、仕事関係で付き合いが出来たのだった。
いつものように互いの暇な時間を見つけ、医師を訪ねて世間話をしていたら、
その医師がこんなことを言い始めた。
「あなた、何年のお生まれ?」「昭和17年です」
「ああ、そうですか。実はね、あなたの世代、突然死のリスクが高いんですよね」
死というものを、まだ意識することもない40ちょっと過ぎの男をつかまえ、
医師たる者が何たることを……。
「先生、何故なんですか。それって」少しばかりの憤りを込めて聞いてみた。
「そもそも、あなたたちは幼少期が食糧難だった世代です。
つまり栄養不足だったんですね。青バナを垂れた子が多かったでしょう。
あれもタンパク質の摂取不足です。突然死が多いのは幼少期の栄養不足が一因らしい」
そう言われれば、確かに垂れたハナを服の袖で拭い、
袖口がテカテカ、ゴワゴワとなった子が多かった。
「あなた、ご兄弟は?」医師が続ける。
「兄3人に、姉2人の末っ子です」
「なるほど、そうだとお母さんのおっぱい、あまり飲めていませんね」
「さあ、どうでしたでしょう。よく覚えていませんよ」
「おっぱい、大事なんだがなぁ」
医師のつぶやきが重く響く。嫌になって早々に退散したのだった。
もう一つあった。こちらは早死の話だ。
「体育会系の人は、そうではない人よりも平均寿命が約6年短い」
という週刊誌の記事である。
その中で、さる医師が「若い頃に激しい運動をしてきた人は、
心臓の摩耗と機能低下を抱えていることが多い。その蓄積されたダメージが
年を取ってから露見することがある」と語っていた。
この話にまたまたぎょっとさせられた。
確かに、運動選手の心臓は普通の人より大きく、よく『スポーツ心臓』と言われる。
それが原因で突然死したスポーツ選手がいるにはいる。
かく言う僕も運動漬けとも言える大学生活を4年間送った身だ。
「平均寿命が約6年短い」なんて突き付けられると心は穏やかではない。
そんなこんなで脅され続けていつの間に82歳になった。平均寿命もクリアした。
「どうです先生!」と言ってやりたいが、あの先生、今もご健在だろうか。