書店で偶然目についたのは、もう20年以上前によく読んだ、星新一のショートショート。
まだ読んだことのなかった「ご依頼の件」と、
昔読んだ中の代表作「ぼっこちゃん」を手にとった。
昔読んだ時の記憶では、星新一のSFショートショートは、
都会的で意外性があり、スマートでユーモアがあった。
ショートショートは一話があっという間に読める。
どきっとする意外な結末にも、どろどろした感情がまとわりつかず、
なるほどねぇ思うが、すぐに次の世界に入って行ける。
星新一の魅力は、シニカルでウイットに富むが生活感のないスマートさだと思った。
面白いが、何も残らない。
ところが、今回読んでみて、以前のイメージとは全く違う印象なのにびっくりした。
一口で言うと、「怖い」のだ。
読んでいて、多少なりとも先が読める自分がいる。
その先というのは、「重い人間の業が込められている」と、文庫「ぼっこちゃん」の帯に書かれていたが、
そう言ってしまえばそうなのだ。
ああ、自分も年をとったんだと思った。そんなことがわかるようになってしまったのだと。
今となれば、彼の作品をなんと言ったらいいのだろう。
大人のイソップと星新一自身は言っていたそうだが、
私に言わせれば、これは現代の怪談だ。
「怖い」のは、人間に約束された救いようのない未来を垣間見るから。
自分が年を重ね、どろどろにまみれて初めて、目を開かされた星新一のショートショート。
泥の池に咲く、蓮の花のような美しさである。