茨城一家殺傷
岡庭由征容疑者が少年時の公判で語っていた攻撃衝動と性的衝動
2年前に茨城県境町で発生した家族4人殺傷事件について、茨城県警は5月7日、埼玉県三郷市に住む無職・岡庭由征容疑者(26)を殺人容疑で逮捕した。2019年9月に境町の住宅で、小林光則さん(48=当時)と妻の美和さん(50=同)が刃物で刺されて死亡し、子ども2人が負傷した事件で、小林さん夫婦を殺害した疑いが持たれている。
岡庭容疑者は2020年11月、自宅に硫黄45キログラムを所持したとして埼玉県警により三郷市火災予防条例違反の容疑で逮捕されたのち、消防法違反の罪などで起訴されていた。さらに今年2月には、警察手帳を偽造したとして茨城県警が公記号偽造容疑で逮捕しており、同罪での起訴もなされ、公判期日が決まった矢先の逮捕だった。現在、殺傷事件についての認否は公表されていないが、容疑を否認しているとみられる。 彼は少年時代に殺人未遂などの罪で裁判員裁判に付された過去があり、当時の公判で自身の“抑えきれない殺人衝動”を赤裸々に吐露していた。いわゆる埼玉・千葉連続少女刺傷事件の公判でのことだ。 岡庭容疑者は2011年11月、三郷市で中学3年の女子生徒(当時14)の顎を包丁で刺し、同年12月には松戸市で小学2年の女児(当時8)の背中や脇腹など数か所を小刀で刺して重傷を負わせたとして殺人未遂の疑いで逮捕されたのち、さいたま家裁へ送致されたが、2012年7月に家裁が検察官送致(逆送)し、起訴された。殺人未遂罪のほか、三郷市内で自動車やバイクに放火したという非現住建造物等放火罪、2010~11年にかけて千枚通しを用いて猫2匹を殺したという動物愛護法違反など計13の罪に問われ、公判は2013年2月からさいたま地裁で行われていた。 容疑者の現在の名は「由征」だが、この当時は、平成仮面ライダーを連想させる「吾義土(あぎと)」という名前だった。これを本人は小さい頃、気にしていたという。 「小学校の頃に『変身してみろよ』と上級生にからかわれた。テストで名前のところに『私は誰でしょう』と書いたり、友人の名を書くようになった」(公判での母親の証言) そんな容疑者に父親は「画数で名付けたんだから、自信を持ちなさい」と励ましていたそうだ。また容疑者宅ではかつて猫の糞尿に悩まされた時期があり、これに頭を悩ませていた父親は「(猫を)殺してやりたい」と家族の前で話していたともいう。この発言や、家にやってくる猫を両親が追い出すのを見て、猫を「敵だと認識」(家庭裁判所の調査記録より)するようになった。小学5年生の頃から、猫の虐待を始める。 刺傷事件当時、高校2年生だった岡庭容疑者は、高校を退学し、通信制の高校に移ったばかりだった。退学になったきっかけは“猫の首を学校に持って行ったこと”。だが母親は、息子がおもちゃの猫の首を切ったのだと勘違いしていたのだそうだ。
「学校から電話がかかって来て『明日来てください』と言われた。息子に聞くと『おもちゃだよ』と言われたのでおもちゃの猫だと思っていた。翌日学校に行くと『ナイフを持っています』と言われてショックを受けた。たとえおもちゃでも、首を落とすなんて、と、ナイフを取り上げ母屋の二階にしまいました」(公判での母親の証言) 母親によれば、呼び出された学校で学年主任から「今度は人をやるんじゃないですか」と言われたともいうが「そんなことをするわけないでしょう」ときっぱりと反論したのだという。 「息子は小学5年生の頃からパソコンを使っていた。ある時画面を見たら、猫を茹でる動画を見ていた」(同) 小動物を殺傷するという“兆候”を高校は重大に捉えていたが、母親は息子の「猫はおもちゃだった」という言い分を信じ、閲覧していた動画の内容も、殺傷行為も、大きく捉えることはなかった。そして殺人未遂事件に発展したのだった。法廷で彼の様子を見ていた傍聴人は当時の容疑者の様子をこう振り返る。 「法廷では後ろ姿しか見ることができませんでしたが、痩せ型の長身。おかっぱ頭で、すごく頻繁に髪の毛をいじっていたのが印象的です。『~~じゃないっすか』など感情の起伏なく淡々と答え、どこか他人事のような受け答えに聞こえました」 容疑者本人は「緊張するとそうなる」と証言していたというが、口元が緩みニヤついていたことも、公判で取りざたされた。
「犯行時にニヤッとしていたと娘が言っていた。審判のときもニヤッとして、弁護士にたしなめられていた」(被害者の母親の陳述)
「調書を読んでいるときに君の口元が緩んでいるように見えたけど?」と裁判長にも問われ「ちょっと思い出しちゃって」と答えていた容疑者は、被告人質問で殺人衝動についてこのように語っていた。
「(他人と違う自覚は)あると思う。事件を起こしたり。趣味好みが人と違う。(趣味というのは)放火をしたり、刺したりすること。今でも時々、殺そうと考える。勝手に(頭に)出て来る。いまのままだと、またやる。拘置所で想像する。またやっちゃうし、捕まりたくないから(自分を)変えたい」
家庭裁判所の調査記録などでも、攻撃衝動と性的衝動が結びついていることを指摘されている。当時の彼は、人を傷つけることで性的興奮を得ていたという。
それは公判で被害者の代理人弁護士から“拘置所での生活”について問われた際も、はっきりと答えた。
代理人「拘置所で雑誌買ってますか? グラビアを見てどう思いますか?」 容疑者「殺すよりは(興奮度合いが)下」
代理人「自慰行為もしますよね。水着を見てしますか?」
容疑者「よくわかんない。その人を殺すってこと(を想像して)」
代理人「事件の何を思い出す?」
容疑者「刺してるあたり。殺したいとかもあった」
当時の彼には、雑誌に載っているグラビア写真よりも、人を傷つける行為のほうが性的興奮を得られた……と取れる問答だ。 当時、検察側は論告で「少年は犯行を繰り返しており、殺人への衝動が強く再犯可能性が高い」として、懲役5年以上10年以下の不定期刑を求刑していた。対する弁護側は「再犯を防ぐため継続的な教育を行う必要があり、それができるのは医療少年院をおいてほかにない」と主張。判決で田村真裁判長は弁護側の主張に寄り添う形の「医療少年院で治療や矯正教育を施すことが有効」として、家裁に移送する決定をした。のちに送られた医療少年院を出院後、今回の逮捕へと至っている。 公判に出廷した精神科医は、当時、広汎性発達障害と診断されていた彼について「治療は施設で終わらない。なぜなら施設に女の子がいないから。施設で治療が終わると思ったら困る。出てからが問題」と、継続的な医療機関との関わりの必要性を強調していた。 出院後の通院状況はいかなるものだったのか。茨城事件の動機も含め、全容解明が待たれる。
(2021.5.9.NEWS ポストセブン)
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