すそ洗い 

R60
2006年5月からの記録
ナニをしているのかよくワカラナイ

八王子・滝山病院

2023年03月08日 | 社会

「ここね、人が人を殺すとこなんです…」
相次ぐ患者の“死亡退院”をスクープしたのはNHKだった

「ここね、人が人を殺すとこなんです。僕を助けてください。お願いします。僕は死にたくないんです」  東京都八王子市の精神科病院「滝山病院」にて、患者からのSOSで支援を行っている弁護士による告発で、看護師による患者に対する暴行が常態化していた疑いが浮上した。50代の男性看護師1人が逮捕され、他に3人の看護スタッフが捜査対象になっている。  一連の報道は、2月15日にNHKが「ニュース7」で「スクープ報道」して先行した。NHK報道は、ドキュメンタリー班の2人のディレクターが1年がかりでこの病院について取材した内容をベースにしたニュースだった。  この「スクープ報道」の集大成といえるドキュメンタリーの内容とその後の反響を確認していきたい。

 
(1)ETV特集「ルポ 死亡退院 ~精神医療・闇の実態~」放送(2月25日)

 1年がかりで滝山病院を取材したNHKドキュメンタリー班の番組がEテレで放送された。1時間のETV特集「ルポ 死亡退院 ~精神医療・闇の実態~」というドキュメンタリーだ。  NHKが第一報などのニュース番組で放送した、病室での看護スタッフによる患者への暴言・暴力・虐待の映像も登場する。それだけでなく、ドキュメンタリー班が1年がかりで取材を重ねた、これまでは明らかにされてなかった様々な「スクープ報道」があった。  看護スタッフによる患者への暴力・虐待などの問題にとどまらず、一連の患者の人権軽視の背景や究極的な責任のありかに鋭く迫る報道だった。なかでも番組では行政の無責任を鋭く告発している。すでにニュースで放送されたものと重複しない部分でドキュメンタリーの「スクープ」といえる内容を簡単にまとめる。

 病院からの退院を切望する男性患者(幸田清さん=仮名、後に死亡退院)は、面会した弁護士に「病室に戻ったら殺されてしまう」と泣きながら恐怖を語っていた。事実、「患者たちの何人かは看護スタッフらによって死に至らしめられたのでは?」という疑いを示唆するケースも番組ではいくつか登場する。 〈「ここね、人が人を殺すとこなんです。僕を助けてください。お願いします。僕は死にたくないんです」〉  悲痛な声で弁護士に救助を訴えていた幸田さん。  幸田さんの病棟内での様子も映像で残されている。不安なのかぼそぼそ話し続ける彼に男性の看護師が「うるせえよ。寝てろっつってんだろ。黙ってろ。しゃべるなっつってんだろ」と強く殴りつける場面もある。 

「死にたくないんです」と話していた幸田さんだが、弁護士との面会から1か月も経たないうちに病院内で謎の死を遂げた。病院側の診断は「急性心不全」。原因は不詳とされ、享年46だった。  暴力、暴言、虐待、身体拘束、適切な治療や看護の拒否など、患者にとっては「恐怖」ばかりが支配するばかりの病院内の実態が浮かび上がった。 

リストにある患者の記録では、“死亡退院”が全体の78%を占めていた。異常といえるほどの高さだ。記録を分析して、患者たちが滝山病院に送り込まれる背景を類型化した。  まずは精神疾患や認知症など負担が重い患者を預けたいという「家族」の意思。  そして、滝山病院は人工透析治療もできるという内科疾患と精神疾患との合併症に対応する数少ない医療機関だが、患者を診る受け皿が必要な「他の精神科病院」の都合もあった。  さらに精神疾患で手がかかりがちな生活保護を受給する人を送り込もうとする「生活保護行政」。リストにある患者の半数以上が生活保護受給者で、各自治体が滝山病院を頼みにしてきた構図が見える。  それぞれにとって、滝山病院が都合のいい「必要悪」になってきた実態がある。 〈(病院スタッフ) 「いらないものを捨てるみたいな感じで行き場のない人たちのたまり場みたいな。だからそこに入れられているってことは求めてる方たちもいらっしゃるってことが現実なんだろうな。必要悪じゃないですかね」〉

 滝山病院の“院長”が以前院長を務めた朝倉病院(廃院)では、連続不審死や身体拘束、診療報酬の不正請求の末の保険医取り消しの“前科”があった。朝倉病院での診療や投薬、身体拘束などと滝山病院での実態との共通点が浮かぶ。  この番組自体の「スクープ報道」としては、滝山病院の朝倉重延院長を登場させていることがある。病院内での画像や会話の音声などでこれまでの他社の報道にも登場していない“院長”の存在が強く浮かび上がる。  院長が患者の死について、笑いながら本音ともとれる言葉を語る音声が放送された。 〈 院長(音声)「また一人逝っちゃったな。申し訳ないけど、そういう人ばかりなんだよな。まあしょうがないんだよな(院長の笑い声)」  院長「やっても助かって伸びるヤツもいれば、そのまま逝っちまう、そういうレベルなんだよな。根本的に治すなんてとんでもない話だよ。いつか死ぬ(院長の笑い声)」〉  取材を申し込むディレクターの問いかけを無視して、スポーツカータイプの高級外車を運転して去っていく院長の姿も。  問題の背景は暴力・暴言・虐待だけでなく、患者の人権をないがしろにする“院長”による病院運営とそれを厳しくチェックしない行政や精神医療の世界、その全体に責任があることを強く示唆する内容になっている。

ドキュメンタリー取材・制作の中心は、精神科病院の調査報道で一躍話題を集めたNHKの青山浩平ディレクターと持丸彰子ディレクター。2021年7月、ETV特集「ドキュメント 精神科病院×新型コロナ」で、コロナ禍で転院を余儀なくされた精神科病院の患者などの取材を通して、日本の精神医療の前近代的な姿を浮き彫りにし、文化庁芸術祭テレビ・ドキュメンタリー部門優秀賞やギャラクシー賞選奨など数々の賞を受けたコンビだ。  精神医療に関しては一線級の専門家たちからも厚い信頼を得て取材する最前線のメディア人といっていい。  滝山病院の事件をめぐっては、警察の捜査や東京都による調査の進展にともなってテレビや新聞などでも報道されているが、“院長”の責任や行政の責任など背景にある構図にこれほど深く切りこんだ報道は見られない。さまざまな事実の断片を拾い集めて、責任のありかに迫っていく2人の調査報道は知的でスリリングだ。一方、けっして答えを押しつけることなく見る側に委ねていて、上質な映画を見ているようでもある。  事実、番組のラストではほんの少しだけ希望が見えてきて、ちょっと救われる気持ちにもなる。診療報酬を数多く得るために患者たちの命が犠牲になる事件がたびたび起きても、一向に変わろうとしないこの国の無責任なありように対する静かな怒りがじわりと伝わってくる。  番組最後に取材に協力した人たちの名前がクレジットで示されるが、多くの専門的な知見をもった人たちに助言を求めたことがわかる。

(2)日本精神科病院協会 現地調査へ(第七報、2月28日)

「協会の東京支部が“虐待防止委員会”設置へ」(NHKが昼すぎに関東ローカルのニュースで放送)  全国1,185の精神科病院が会員になっている日本精神科病院協会が、“精神医療全般に対する信頼を著しく損なう”として滝山病院に現地調査を行うことを決めた。協会の東京支部である東京精神科病院協会が前日にホームページに新たな文章を掲載した。  “事態の発生は痛恨の極みだ”とし、“背景には精神科病院の閉鎖的側面など反省すべき点がある”と自省する。協会内に“虐待防止委員会”を近日中に設置することや全会員病院を対象にした研修を実施すると発表している。  これは明らかにETV特集を視聴した上での反応である。放送で指摘された精神医療界の無責任さを深く反省したものだと言っていい。この点でも「スクープ報道」が投げかけた「問い」は多くの関係者の胸に響き、波紋は今も広がっているといっていいだろう。

(3)加藤勝信厚生労働相が閣議後の記者会見で「厳正に対処する」と表明(第八報)

 加藤厚労相は滝山病院の院長が以前、保険医を取り消された後で「再登録」になった件について質問されると、「個別事案になるから差し控えたい」と回答を避けた。その上で「引き続き規定等に則って適切に対応していきたい」とコメントした。  この部分は、ニュースとしてはTBS「news23」が初めて「滝山病院」について特集したVTRの一部として放送された。滝山病院に入院していた弟が、5年前に“死亡退院”したという女性に番組が独自にインタビューした。相原弁護士にも独自に取材し、弁護士が提供した病院内の暴力・暴言の映像や音声、画像などを交えながら報道した。  弟が“死亡退院”したという女性は、病状の急変の知らせを受けて病院にかけつけると、弟の目の周りに見たことがない赤い“あざ”を見つけた。  目のあたりをかなり強く殴られたときにできるような“あざ”。病院関係者はいつそれがついたのか尋ねても「わからない」と繰り返す。弟の診察記録などにも“あざ”のことは記述されていない。弟が亡くなったのは“あざ”を見つけた2週間後のことで、病院が女性に伝えてきた死因は「心筋梗塞」だったという。  注目されるのは、今回、TBSが民放テレビの中で初めて、滝山病院の院長が以前、2001年に埼玉県で問題となった朝倉病院の院長でもあった事実を報道したことだ。当時の映像を放映して、“違法な身体拘束”や数多くの“患者の不審死”が社会問題になり、診療報酬の不正請求で保険医を取り消されたことを伝えた。  滝山病院の元非常勤看護師は「院長が診療報酬に偏重して過度な医療提供を行う傾向がある印象」を持ったと証言する。「わずかな血液検査の異常値も『心不全』と診断し過剰に抗凝固薬を投与する。最大の虐待は過剰な医療提供であると感じる」と語った。  滝山病院の院長については、音声も映像もなく、氏名を示すことなく「院長」とだけ表現し、すべて匿名で報道していた。  VTRからスタジオに下りると、生活保護行政が滝山病院を頼りにする構図が図解で示され、ETV特集を簡単にまとめたようなかたちで説明した。全体で14分弱の特集だ。 「後追い報道」ではあるが、TBSは堅実にETV特集をなぞるようにして報道した。病院長ではない、医療法人の責任者である理事長のコメントを取ったテレビ朝日と方向性は違うものの、「スクープ報道」したETV特集にリスペクトを示しながらも「独自性」を出そうというフェアな報道姿勢に映る。  なかでも原因が不明の赤い“あざ”を残したまま病院内で死亡した弟がいる女性のケースは、暴力と死因との因果関係をうかがわせるもので、今後、関係機関による徹底した調査や検証が求められる。

(4)日本精神科病院協会が会員病院に研修へ(第九報、3月3日)

 日本精神科病院協会が、会員病院への研修などを行うと発表した。  NHKが「ニュース7」で放送。会見では協会の山﨑學会長が「当会会員病院でこのような事件が発生したことは慚愧に堪えない。深く陳謝申し上げます」とコメントした。協会では2日前に病院に聴き取り調査を行い、院長が“人権侵害ないように運営したつもりで寝耳に水だった”として、暴行の事実を把握してなかったと答えたと説明した。  一方で、埼玉県所沢市の男性(50代)が“家族の同意なく強制的に入院させられた疑い”で所沢市や病院担当者を監禁の疑いで刑事告訴したことを伝えた。医療保護入院では「家族の同意」が法律で義務づけられているが、所沢市の職員が「音信不通」などと虚偽の書類を作成した疑いがあるという。男性の姉は、ETV特集でも「まったく“音信不通”ではない」と証言したが、この日のニュースでは彼女が市職員を虚偽公文書作成などの疑いで告発したと伝えた。  テレビ朝日「報道ステーション」も、日本精神科病院協会の記者会見でのコメントを使いながら、滝山病院では看護師や准看護師が175人いるなかで9割以上が非常勤だったことや朝倉重延院長の過去の動画を紹介して、朝倉病院事件で保険医登録を取り消されたことなども伝えた。協会の幹部は、院長の言い分を聞いて「今回行ってみて一生懸命やっていたと分かったので申し訳なかったと逆に思いました」(日本精神科病院協会・平川淳一副会長)などと同情的な姿勢を見せていた。  TBS「news23」も、協会側が公表した滝山病院院長の「寝耳に水」発言を伝えつつも、病院への強い不信感をもつ患者家族の声を放送した。入院していた患者が危篤状態と連絡を受けてかけつけると、あまりに苦しそうだったので「延命処置の中止」を頼んでも、その後も治療が続けられたほか、その患者には骨が露出するほどの褥瘡(床ずれ)があったという。父親を亡くした男性は「いま思うと無理に投薬したり、助かる見込みもないのに治療を無理にしていたのかな」との疑いをもつ。「今はただ父が亡くなった本当の理由を知りたい」と無念の思いは消えることはない。  この男性患者のケースもETV特集に出てきていた。「スクープ報道」したNHKを民放がしっかり追いかけている。「news23」ではスタジオで視聴者に対して情報提供を呼びかけ、今後もこの問題を追及する構えを見せている。

 ETV特集班が先行して取材した「スクープ報道」のドキュメンタリー。NHKはそれをニュースで小出しにすることで、他社の追随を許さず、指導監督機関である東京都や国に反応をぶつけながら、問題の改善へと報道の流れをつくっていった。民放でもテレビ朝日、TBSなど一部のテレビ局は、堅実に「後追い報道」をしながら、比較的短い放送時間で視聴者が理解するのが難しい精神医療の問題を伝えようとしている。 「スクープ報道」と「後追い報道」の双方がうまく機能して、滝山病院という精神医療の闇の実態が国民の目にさらされて、少しでも改善の方向に向かっていくことを願う。  このドキュメンタリーで伝わる、亡くなった患者の救いを求める切実な訴えと患者救出に命がけで取り組む弁護士。対照的に患者を暴力で威圧する看護スタッフの下衆な言葉づかいや“院長”の話し声。人間という存在の尊厳とは何か。人生の幸福とは何か。最後まで考えさせられる。それは映像メディアだからこそ伝えられるリアリティーだろう。  番組内でほんの一瞬だけ写った“院長”の表情は、彼がこれまで巣くってきた精神医療の暗闇を象徴しているように見えた。

 
 
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