役小角と言えば、神通力を使う山の民である。法力を使う行者である。役小角を天地に住まう人に貴賎は無いと信じる存在として描く一方で、藤原京を作ろうとする持統天皇を鵜野と呼び、その飛鳥の作り出す「国家機構」を否定する。見方によっては国家主義と民衆主義の対立として描く。
国家が国家として成立するための官僚機構の構築や租庸調の仕組みなどは、その国家という統治するものとされるものを固定する。役小角はそれに抗った人々の中心となっている。役小角が希求する世界は「命令しない、奪わない、助けあう」世界である。ある種のユートピアである。
今や国家主義、鵜野と呼ばれた持統天皇(女帝)が創りだした世界が「当たり前」となっている日本。この山本兼一の絶筆が示すものは、その統御中心の国家のあり方への、形を変えた疑義の提示なのだろう。。