腎臓に疾患がある。状態を血液検査で見るのだが、その結果状態が悪化していると「腎臓の機能が高まる」数値が血液に顕れる。
簡単に言えば、人間の体は自動車と同様である。巡航速度を保つのにトップギアで動くわけだが、トップギアに入らぬような場合、セカンドギアに落として、エンジンの回転を高めて速度を維持する。同じ速度を維持するためにギアを下げ、エンジンの回転数を高めることで、当然エンジンに負荷がかかるし、燃費もわるくなる。
肉体の機能が昂進するのは、つまりは肉体に負荷をかけている状態なのだ。
宇宙飛行士が宇宙線を浴びて「免疫機能が高まる」という状態となる。これも、肉体的な負荷がかかっている証拠である。病原菌やウィルスなどに感染しない限り、こうした余分な機能向上は、基本的に「有害」な刺激なのである。
スポーツ選手は、その競技のためにトレーニングをする。トップアスリートともなると、一般人が耐えられないような負荷を体にかける。その負荷がかかった筋肉は、休息によって治癒され、より一層強靭な筋肉となり復活する。
ここで重要なのはトレーニングと同様の、質の高い休息である。一日40キロを走破するマラソンランナーのトレーニングでも、試合前にはベストコンディションを維持するために、有効な休息を必要とするのである。
宇宙飛行士の被曝も、こうしたアスリートのトレーニングと似ているだろう。長時間宇宙空間に居たとしても、彼らは宇宙線の影響の劇的に少ない地上へと必ず帰還する。その時間がアスリートの休息と同様になるわけだ。
内部被曝を考えてみると、このアスリートのトレーニングと同様の事態が、内部被曝では一日24時間365日続くのである。寝ている間も走り続けるマラソンランナーなどは存在しないし、そもそも生きていることすら困難である。
ラドン温泉で活力を取り戻すというのは、適度な運動としての外部被曝と、そこから離れて旅館の中で食事をしたり寝たりすることによる回復力を与える時間があるからである。ラドン温泉に24時間つかり続けていたら、それが365日続いたら、間違いなく命は無い。
つまりは内部被曝はそうしたものであるし、外部被曝と内部被曝を同列に扱うなど、本質的な部分で「誤った」理解だと思うのである。
塩は150gを一度に接取すると、接取した半数の人間が死に至る。ところが、体の外側から一度1Kgの塩を振り撒かれても、人は生きていられる。体内に接取した量と外部からの量は、放射能に限らず差があるわけだ。ちなみに、塩の一日の摂取量は6g程度が良いとされているわけだ。それ以上だと高血圧や成人病、慢性疾患の原因となるといわれている。
生命活動に必須な物質でさえ、体内に取り込む場合と、体外にある場合では、これほどの違いがあるのである。生命活動に不要な、むしろ生命活動を阻害する要因とも言える「放射性物質」が、体内にある場合と体外にある場合で、同じわけが無い。
ちなみ放射性カリウム40はバナナなどに多く含まれているし、多くの人間が体内に保持しているものだが、カリウムそのものが体内では必須であるのと同時に、すばやく新陳代謝によって体外にも排出される。しかも、こうした物質が存在する前提で、我々の体は進化してきた。蓄積せずに代謝機能に乗せることで受け流せるように進化してきたわけである。
対して人工物である人が作った放射性物質の多くは、そうした代謝機能では手に負えないものばかりである。こうした物質特性を無視して、放出される放射線だけを問題にするから、被曝の話はオカシクなるのだ。体内に留まり、代謝のフェーズに乗らない、ストロンチウムやプルトニウム、さらには人間の体を構成する水そのもの形状で存在するトリチウム。人体の内部に入ることで、狭隘な部分に集中的に放射線を浴びせ続けるわけである。これらの人工物が「安全」なワケがない。