「たにぬねの」のブログ

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textotext_17_ロケットとエレベータ_iv

2021-11-12 17:30:00 | texto
iii
ワイングラスを片手に

 実行者がアジア超大国を離れて(≒衝突して)から5時間とちょっと経っている。いくつかある内緒の移動経路を組み合わせ、アジアではないどこかの国の都会。繁華街のバーでも構わなかったが、できるだけ多くの報道チャンネルを視聴したかったので、ここら辺に設けている隠れ家でくつろぐことにしたようだ。
 視聴しているどのチャンネルもアジア超大国にある新築超高層ビルで起きたリニアモーターカー衝突事故を大きく報道。実行者は犯行声明をだしていないが事件として扱っている番組もある。

 街やビルにある監視カメラに、たくさんの人が持つスマホなどの携帯端末のカメラも加わり、タクシーサイズのパーソナルリニアがオープニングセレモニー真っ只中の超高層ビルの下の方である地上100m付近に衝突する幾つかの映像が頻繁に流されている。
 ロボットアームに操縦させたタクシーリニアは狙い通りの速度と角度と位置にミサイルのごとく突っ込んでいる。激しく損傷・変形したリニア車両はビルを支える柱に複雑に絡みついて、新築超高層ビルの運命を決定づけたことを実行者に確信させる。小さくない地震や竜巻も発生しなかったことにも感謝しつつ、ワイングラスを片手にディスプレイ越しであるが倒壊する様子をライブでみるつもりで椅子に腰かける実行者。

 人は健康、年齢などで、出口は屋上ヘリポートと地階からで、ビル内の移動はエレベータ、階段や避難スロープなどで振り分けが行なわれ、それぞれの出口に近い階から順番に避難誘導が進められている模様をライブで伝える番組。衝突から約6時間が経過し、4割程度の人々が脱出しているとアナウンサー。無事に避難してきた人々のインタビューが差し込まれたり、ネット上に素直なコメントがちらほら上がったりしている。
 ビルに突っ込んだパーソナルリニアが実行者の思惑通りになっていれば、少なくとも本日、超高層ビルにたまたま居合わせた専門家なら一目で倒壊の危機に気付くはず。より近くで現場検証をできる分、今頃は実行者よりはるかに精度の高い予測をしているはず。
 これらから実行者は避難している多くの人々はビルが倒壊の危機に直面するのを知らされていないと推測。最短時間で完了する避難の計画が立てられ、大きな混乱もなく遂行されている現状と合わせ、諸悪の根源である実行者は感心している様子。最大の目的が忌々しい建造物を衝撃的に破壊することだから、随分身勝手な発想だが倒壊するまでに何名が避難できるかは神の類に委ね、空になったグラスにワインを注ぐ。

 衝突から8時間が経ち、早ければそろそろことが起きる頃合いと思いながら視聴するほろ酔いの実行者。目的達成を実感するため生中継をみているのだが、それでもいくつかの違和感をある。とりわけ引っ掛かっているのがロケットがビル屋上から消えていること。
 衝突の衝撃で時間差で落ちたか、脱出に使われたか。いずれにしてもニュースの一コマ程度にも扱われないことは非常に不可解な印象を受けた実行者は気になって、色々調べる。大きなテレビ局からは何も分からなかったが、地元ラジオやネットのミニ局によると衝突から4時間後に屋上から打ち上げられたらしい。ヘリポートに避難誘導された人々を乗せるためのヘリコプターから燃料を補給したと記述されている。ネットには発射時の映像も落ちていた。
 とても慎重な点火、噴射、上昇で打ち上げというより垂直離着陸できる戦闘機の離陸。屋上から100mほど上空に達すると上昇をやめ、そのまま今もホバリングしているらしいがライブ映像はどこも撮っていない。いよいよ意味不明な動きであるが通信のアンテナ的なことをしてるのかもしれない仮定を元にさらに検索する実行者であったが結局、リユースロケットの目的は分からないまま・・・・・・。

 やがて9時間が経過しようとする頃、避難誘導の流れが止まった。相変わらずライブ中継を視聴している実行者は倒壊の予兆がはじまったのかもしれないと思ったが数分後に目にした生映像は倒壊の様子ではなくリユースロケットのメインエンジンの噴射であった。
 大手テレビ局のチャンネルを中心に一斉に様々なロケットの映像が映し出される。地上から2100mのロケットまで映す引きの画面や斜め下からアップ気味に火を吐くロケットの画など。不自然なのはリユースロケットは何かに繋ぎ止められているごとく、少しも上昇しない様子。
 しばらく、実行者は実行者であることを忘れ、一視聴者として見惚れてしまい、気がつけば一時間近くも何もしないままディスプレイにかじりついていた。
 実行者は己が自分勝手であるから、ありとあらゆる破壊工作を完成度高く実行できる自覚がある。それだけに、自分より見事な実行を滅多に拝めることがなく、それも失望の一つであった。

 しかし、今日は違った。
 通常をはるかに上回る大量の電流がリニアモーターカーに流れるように仕組み、ロボットアームの操縦によりカーブから飛び出させ、出来立てほやほやの超高層ビルにぶつけた。車両が取り除けないことで、時間差で倒れるはずで今回も実行者のターンで終わる予定だった。
 しかし、倒れなかった。
 他者による見事な実行を目撃し、上機嫌でグラスにワインを注ぐ実行者。
 そして、あることに気付く。二者択一、忌々しかった事実を尊重するか他者による見事な実行に敬意を表するか。自分勝手故、既に生じている犠牲について考慮しないで迷うことなく敬意を表すことにした実行者。
 猫の手に過ぎない余分な事をしたに過ぎないから、これより先は操縦者の実力次第、そう思いながらワイングラスに残ったワインを一気に飲み干す。これ以上ライブ映像も見る必要もないから余分なことをしてしまったのでアジトは処分し、どこかの国の都会から姿を消した。恐らく、次なる実行まで誰も実行者の足取りをつかめないだろう。
vへつづく

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