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瀬戸内龍,発進!その3_texto_039_ver1.505

2012-06-08 23:22:18 | texto
瀬戸内龍,発進!その3
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瀬戸内龍発進_リメイク計画_インデックス

ANHUI401で行われていた賭けがどうなったか。最初の火災発生後では少なからずビル登りを辞めなかった偽ビル清掃員達もリニア衝突後、さすがに競技は中断された。何人かは不意の大きな揺れに転落しそうになる。この事態に、力尽きたかにみえた皆の命綱を切った張本人は自らの体を動く堰とし、ひたすら上に進んでいた男は蝿取蜘蛛のように壁面を動く。結果的に連係した蝿取と風の機転により転落者を出すことは阻止できた。とはいえ、軽症とはいえない負傷者はいる。蝿取自身、救う過程で利き腕を痛めた。兎に角、最寄のフロアに避難し、状況を窺うANHUI401登り参加者達である。

一方、早い段階でレースをリタイアし、随分前に屋内に戻っていた黒悟空は物取り以外の考えが浮かぶ。競技者を使って爆発、衝撃以来のビルの揺れにビビッているVIP達の救助活動による金儲けだ。ゆっくり、救助を待つのが一番と考える風は黒悟空やその手下達の面倒に巻き込まれるのを嫌って、再び上を目指し、窓から出て行く。黒悟空は蝿取に通信機を渡し、蝿取の後を追わそうとする。だが、蝿取は動けなかった。

さっきの記憶が、よみがえるのだ。原因がリニア衝突にあることは知らないだろうが、その際の衝撃においてビルは大きく揺れた。バランスを崩した競技者達は命綱が切れていたので重力に逆らえない。蝿取は周囲にいる何人かを体をはって守る。が、風のずば抜けた動きがなければ・・・・・・。この想像が皆の命綱を切った蝿取の足を止める。

黒悟空はいう。結果論的にはむしろ逆だろう、と。事前に命綱を切られていたことが零コンマ何秒のレベルで揺れに対する体の重心の取り方を早めた。というのもビル最上部のヘリポートも一連の出来事で大破した事実からヘリポートから吊るされている命綱も、どこかのタイミング切れたであろう、それも不意に。黒悟空は続ける。結果ではなく、恐ろしいことが起きたかもしれない可能性に恐れを抱く感覚はすばらしいことだ。だが、お前が結局ナナフシなのは恐れから動けなくなることだ。黒悟空は蝿取のことをナナフシと呼んだ。二人は古くからの顔見知りで知り合った頃から時折、ナナフシと呼ぶ。命綱を切る一式を渡すときもナナフシを口にしていた。蝿取は言い返す。

「ナナフシと呼ぶな。ナナフシと呼べば、私が指図通り動くと思っているなら大間違いだ。」
幾らか間を置き、黒悟空は今までしたことのない口調で応える。
「確かに、俺はお前の女性であるコンプレックスを利用してきた。ただ、お前が今、恐怖から動けなくなっているのは女だからじゃない。お前本来の人格に因るところだ。恐怖と対峙したときの対応が人の価値を決めるのじゃないか。怖れから立ち止まっている己に対して、俺がお前をナナフシと呼んだことに敏感に反応し、俺を責めるのは自然界で立派に命を繋いできたでナナフシに失礼だ。」

アホらしい言い回しは、かえって相手を冷静にする効果があるらしい。ナナフシに失礼な物言いをしたのは、黒悟空、あんたじゃないかと思うばかりか、蝿取にとって、口からでまかせ観を否めないの黒悟空の言動であったにもかかわらず、立ち止まっている場合ではない、という一点に関して、黒悟空の主張は間違っていないと蝿取は感じた。

かといって風の様に、したいことがあるわけでもない自分は黒悟空の話に耳を貸すのは妥当なところだ。黒悟空が気にしているのはANHUI401最上部、像の足元に位置するヘリポートの復旧の可能性である。ヘリポートの復旧が叶えば、ビル登りに参加した者達の技術で運んだ人だけでも、ヘリコプターに搭乗させ救うことができる。然り、悟空達の懐もあたたるということらしい。改めて、黒悟空は蝿取に依頼をする。ヘリポートの様子、復旧が可能かどうか調べてく欲しいと。

それから、やはり、突出した風の力は借りたいというのは本心である。だから、さっさと上にいっちまった風に通信機を渡してくれと。さらに黒悟空は続ける。
「残された人員の中では蝿取、お前が一番はやい。ナナフシが風を追いかけてくれないなら、久々に黒悟空の現役復帰も考えられるが総合的に良くないのはわかるよな。事を進めるには司令塔が必要だ。貧相な設備で動く司令塔の機能は芳しくないのが常だ。司令塔の俺がこの場を離れる事態を止められるのは蝿取の実力だけだ。利用ではなく、仕事仲間としてこの話をしている。勿論、プロとして断るのは一つの選択だ。しかし、恐怖で動けなくなっている言い訳にされるのは、ナナフシに失礼だ。」

相変わらず、おかしな言い回しを、くどく、支離滅裂に堂々と仰せになっているが、筋は通っているし、何より状況判断ができている。これまでも、度々、黒悟空の注文に応じてきたのは、彼に弱みを握られているからではない。なんだかんだ言っても、明確な目的も持ち辛いこの街の若者を、それぞれの特徴を活かしながら、やる気の出る仕事を、いっつも、こさえてくれるからだ。あれだけの頭の切れで、この国で、私達の階層に生まれたら、誰よりも腐った考え方になっても良さ気なのに、常に前向きなのだ。ビル登りに、置き引きに、今度はインチキ風人命救助だと。黒悟空の企てに蝿取はのることにした。

艦長承認の連絡が届く。直ぐに正規の手続きを行いながら、承認の通知と同様なタイミングで送られてきた別の二つの電子ファイルに目を通す。自分を含め三人いる艦長待機職の自分以外の二人からである。彼女も艦長になるか否かにかかわらず、待機組のアクションのメールを二人に送っている。だから業務中である自分に対して、今現在、非番の二人から送られたファイルを見るに当たり、考えることは同じだと勇気付けられる。

ただ、対処はそれぞれだ、と感じた。一人は指示の重複の避け、激励がメイン、もう一人は龍が12時間以内に発進できない場合における艦長待機三人の足並みについてだった。二人の前向きな姿勢に負けてはいられない。ここまでを振り返る。するべき初動は済ませたはず。貸し出された龍の設備やメンテのため製造会社へ移動している装備を除いて空港敷地内で常時管理している推進機構になるエンジンや艦橋になる車両については先行した準備を進ませている。到着しつつある、車両の格納を具合をチェックする。配備依頼の連絡先は大橋空港内を省いて鉄道各社、自衛隊、警察や幾つかの企業・公的機関など。今回配備される主な車両編成は消火車両22両、ヘリポート車両10両、支持車両10両、避難用車両49両、救助車両11両、推進・制御車両10両などである。

これらは真っ先に頼んだスジヤの組んだダイヤに則って普段の運行に支障をあたえることなく瀬戸内に向かっている。ディスプレイに示されるダイヤグラフ上の各車両を模擬的表す光の動きが教えてくれる。ダイヤグラフの素晴らしさは仮に紙の上に描かれた状態でも分かるだろう。鉄道文化が島国にやってきたころ、私達の先輩は欧州人が引く、ただの直線に過ぎない一次関数のダイヤグラフを理解できなかったという。しかし、長きに渡り、日々鉄道を利用する人の数が世界で一番多いこの国において高められた線引きの技術は実用的で芸術的である。否、現実的だから美しいのであろう。寸暇も惜しまれる状況下で艦長はダイヤグラフに数秒見とれた。見とれる艦長は、各車両の現在地を示すの水色のプロットの多くは、予定位置を示す黄色のプロットを先行している事実にさらに目を細める。

一刻を争う気持ちは初代メンバーからの伝統らしい。それぞれの車両においても、それぞれの指示系統から見切りで出発や走行速度の引き上げなど行われた模様だが、そういった可能性まで依頼先のスジヤは線引きに織り込み、運び手・乗り手はそれに応え、越えんとする。プロ・アマ問わず、何人かの鉄道関係者のにも、グラフの作成を個人的信用の基、依頼しておいたが、彼らも大御所スジヤの提出したグラフに太鼓判を押し、それぞれのアクションに移って行った。本職・趣味に関係なく、日本には複雑な鉄道を司る・掌る情熱がある。

当然なことだが、派遣元が彼らの職場であるから、龍を動かし、救助活動に参加するメンバーの大半はそれぞれの車両に乗って来る。艦長同様に普段から大橋内で龍の骨格の傍らで働く者は少数派である。更に少数であるが、別口の乗り物でやって来る、または飛んで行く連中もいる。一人の民間パイロットは本当に呼ばれたことに驚きを感じながら搭乗計画を変更し、国際新瀬戸大橋空港に向かう航空便に搭乗した。セルフナチカラ内では多目的救助施設艦への協力は最上優先命令扱いである。訓練機で空を飛んでいたパイロットは、そのまま国際新瀬戸大橋空港に向かうように指示が出た。別のパイロットは直接、ANHUI401に行くように指示が出ている。領空侵犯で撃墜されないか心配であるが、手配済みであることを信頼するしかない。

艦長が待っていたもう一つの公式な指示が届く。21世紀連盟からの瀬戸内龍中心のANHUI401災害対処要請である。約45分、これが一多目的救助艦艦長のプライベートな呼びかけを端にANHUI401災害対処要請が本部経由で発動されるのにかかった時間である。長いとするか短いとするかは現時点で判断することではない。何より、本部が機能していることに安堵したのが正直な気持ちだ。保険として訓練から救助活動に切り替えられる瀬戸内龍の発進要請を取り下げ、意識の比率を瀬戸内龍よりANHUI401について、高くする。

あれだけの爆発物や燃焼系の物質をどうやって、仕掛けたのかは今のところ不明。ANHUI401に直結している超オーバースペック次世代リニアをジャックされた経緯も不明。がさつ、稚拙の類をつけこまれた結果であれば、今後の対策を講じることはできるだろう。そうでない場合、厄介な話になるが、これも現・多目的救助艦艦長が思案する内容ではない。兎にも角にもはっきりしているのは、爆破物が実際に仕掛けられ、爆破やジャックが実行に移され、その結果、只今のところ、世界no.1の高さを誇るビルが数時間以内に倒壊の危機に、そして、未だビル内に取り残された人達はもっと早い段階で生命の危険に晒されているのだ。

それでも100階から下においてはほぼ鎮火、そのおかげでビル内に残っていた人の多くは自力で降り、ビルから脱出している。怪我などして、動けない人々に対しても100%の救助体制が整い、従来の救助ルーチンが機能している状況だ。しかし、高さにして7割、容積にして5割以上を占める三桁の階数のフロアでは救助・消火活動は共に難航している。十数箇所に仕掛けられた爆弾の火薬量が相当の量でビル自体の消火システムしか期待できない100階以上において火の勢いこそ抑え込んでいるかもしれないが燻らせている状態は相変わらず。消火システムが網羅できている範囲は機能しているが、複数ある最初の火元であるホットスポットやその周囲の火については燃焼量が消火量を上回っている状況が続いているのだ。従って、ホットスポットにおける温度と燃焼量はスパイラルで上昇中である。

いくら巧妙に仕掛けられた火災といえども燃えるものがなくなれば火事は終わる。しかし、その前に燃焼に晒されているものは脆くなり、自重などで崩れ落ちる。ビルがビル自身を支える強度を保っている間に消火しなければいけない。しかし、人間の限界はもっと早い時間のオーダーでやってくる。現時点では防火扉や排気システムなど機能しているので、既に、安全スペースに避難している人々の生命に危険が及ぶことはないだろう。だが、分断されている人々を脱出させるには火を消すしかないのである。220階の大会議室に避難できた人々のように階下と分断されず、地上玄関より屋外へ出た幸運の持ち主は本の十数人である。このケースを除き、隔離されたスペースに避難し、ビル内に閉じ込まれている人々は300~1000人程度と予想されている。招待客の取り巻きを考慮すると幅がある数値を弾き出すのが精一杯である。

やはり、異常なスピードでリニアがANHUI401に突っ込ませる計画を成功されたのは痛い。衝突によりビル倒壊の可能性は高まり、本当に倒れるとすれば、その時間は大幅に短縮されってしまった。火災単独であれば消火システムは正常に作動し、火の回っていないルートに火が回らないようにすることで燻っている状態のまま時間が稼がれている現状は悪くはない。しかし、このまま複数の火元であるホットスポット、ホットスポッツの温度が上がり続ければ、如何に最先端材料で建造されているANHUI401といえども、部分的な崩壊が早い時間帯で起きてもおかしくない。部分的崩壊が発生する場所にもよるが、てこの原理でリニアショックを受けた部分に偏った荷重がかることがあればジエンドである。ANHUI401がやじろべえと化すのは時間の問題で、やじろべえが台から落ちるか落ちないかを予測するには情報が少ない。

いずれにしろ、高さ2000mを超え燃え盛るANHUI401の倒壊が街に及ぼす被害が加わってしまう。ANHUI401内の人命よりANHUI401倒壊の目をつぶす優先順位が上がろうとしていた。アジア大国政府が超強力消火弾の配備されたのは、その現われである。超強力というのは消火と発射の両方の意味において。はしご車やヘリ、隣近所のビルからの放水では届かないANHUI401内部のホットスポットやその周辺の火災に対して大砲・バズーカ砲といったキャノンの類に1発30cm径程度の化学消火剤の弾を込め、地上から、はしご車から、周辺ビルから、ヘリから勢いよく放つことで鎮火を目論むのだ。とはいえ、砲から距離、ビルの内部であるといったことを考えると300階を越えたホットスポットに対する命中精度は期待できない。従って、下手な鉄砲数打てば当たる、といった方法を選ばざる得ない。さて、凄まじい勢いの消火剤を大量に打ち込むことに問題はないであろうか。

防火扉、シャッター内に守られた安全な場所に避難できている人達がそこにいる限り、丈夫な囲いが火の手同様水攻めからも守ってくれる。現に連絡可能な避難箇所では随時、双方で連絡を取り合う努力をしているから、実際、超強力消火弾を発砲する際には絶対、安全スペースから出ないよう注意を喚起するアナウンスがされるだろう。それでも、フラフラ避難している場所から出歩く人がいないとは限らないだろう。また、連絡が取れない安全スペースがあるとすれば、先のアナウンスを期待できないだろう。さらに体の自由が利かないなど安全な場所に避難できていない人いるだろう。逆に自力でビル屋外に脱出を試んでいる人もいるだろう。

これらの状況の基、消火弾の雨霰が強行された場合、消火弾の直撃の犠牲になる人が出てくるのは確実である。直撃を免れても、反応性に富んだ消火剤に晒せる。浴びた消火剤を直ぐに洗浄できるのであれば問題を微視できるが、救助の死角に陥った人など考慮すると芳しくない。やはり、超強力消火弾作戦は避けたいはずだ。しかし、倒壊の可能性が高くなれば逆になる。倒れるという手遅れな事態を避けるため一刻も早く作戦を実施しなければならない。

それだけではない気もする。間違いなく倒れる場合は最善を尽くしたというパフォーマンス、責任問題という間接的な理由より一刻も早く打ちたい心理が顔を出すのではないか。つまり、より多くの財産・人命を守るためANHUI401内の人命よりANHUI401倒壊の目をつぶすこと、ばかりか、つぶすための努力のが優先順位が上げるタイミングは存在するのだ。つぶすための努力の優先。超強力消火弾の配備はANHUI401爆破犯人側の完全勝利を意味する。21世紀連盟は瀬戸内龍が到着し、その救助活動が失敗するまで超強力消火弾作戦を敢行しないよう猶予を求めた。連盟のプランには火災を鎮火させた後のビルの補修対策も含まれている。アジア大国政府は受け入れる。

連盟と政府の折衝の中身を艦長がリアルタイムに把握しているかどうか分からない。が、呼応するかのように艦長は倒れることは回避し、取り残された人々の命、健康だって守るため彼女の超並列的思考を加速させる。瀬戸内龍の発進、離陸が許可され、各地からやってくる救助車両やスタッフも瀬戸内に揃いつつある。龍の骨格の傍らでも燃料の充填や変形・発進のための煩雑な準備が整いつつある。さらに時間の短縮を計るため、緊急発進の並列の数を増やそう。もともと空港に配備され、橋側に来ていた車両は空港へ戻ってもらう。一部車両の到着(橋への格納)を待たずに変形・発進準備を進めることにする。以後、着く車両には空港で二次元的に合流してもらえばよい。

そう、海から長江を上っている場合ではない。倒壊や取り残された人の身に危険が迫っている。より新しい情報を基にしたシミュレーションでは24時間で倒れる可能性も50%を超えている。想定の域をはみ出さないだけ、ましとはいえ、初動の龍に想定最高ランクの発進命令を下すことになるとは、とっくに空の準備を進めていたくせに、艦長は顕にならんとする龍の頭の中で思う。

今、旧瀬戸大橋の片側が橋体から離れ、中から車両の一部が押し出されるように現れた。それは開花のような変形で想像上の生物の顔になる。もう一方側も切り離され、飛行機の尾翼風、または舟の艪の感じで龍の尾に見えないことはない。橋から完全に切り離された長い物体はキャタピラ・車輪車両の働きで滑走路に直結している、やや斜めのトンネルを通り、上にある滑走路に向かった。(真ん中がない端だけの橋が残っている。)滑走路部に姿を現したドラゴンは渦を巻くような体制をとり始める。否、渦ではないようだが。巨大人工物はその柔軟性を活かし、まるで子供の縄遊びのような変幻自在に姿を変える。迅速な一次元的な動きはクレイアニメを彷彿させる。1本の4kmはグルグルに巻きながら翼を持つ形に姿を変えはじめる。

つづく
予告その1

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