〇 入退出管理に顔認証×AIを導入 期待以上の成果を生んだ仕組みとは。
オンライン英会話サービスのレアジョブのIT戦略。
オンライン英会話サービスの最大手として知られるレアジョブ。同社は「日本人1,000万人を英語が話せるようにする。」をサービスミッションに掲げ、早朝6時から深夜1時まで、好きな時間に25分間のマンツーマンレッスンをPC/スマートフォン/タブレットで受けられるサービスを提供している。高度なトレーニングを受けた講師数は約6000人。個人会員は累計100万人以上を数え、法人顧客も3400社以上、累計330校もの学校が同社のサービスを利用している。
「私たちはグループビジョン“Chances for everyone, everywhere.”のもと、世界中の人々に、私たちのサービスを使ってもらうことで、自分たちの能力を発揮し、活躍できる世の中の実現を目指しています。現在は英語関連のサービスが主力事業ですが、英語以外のスキルや、グローバルリーダーの育成など新たな事業展開に向け、アライアンスの推進やM&Aにも取り組んでいます」と、同社のグループ総務部 部長の石井 堯之氏は話す。
その基盤となるのが独自に開発したAIビジネス英語スピーキングテスト「PROGOS®(プロゴス)」だ。PROGOSは国際標準規格CEFRで英語スピーキング力を可視化するテクノロジーで、AIでアセスメントの自動化を実現している。レアジョブでは今後、そのアセスメント対象を英語スピーキング力から英語以外の語学力、グローバルビジネススキルへと拡大させ、EdTech企業としてアセスメントデータプラットフォームを活用して様々な事業領域でのアドバンテージを獲得する戦略を打ち出している。
同社が、本社オフィスの入退室管理システムに、顔認証を導入したのは2021年末のこと。「生体認証を選んだ理由は、保守期限切れが迫っていたICカードシステムの代替として、より効率的で運用負担の少ない入退室セキュリティを実現するためです。そしてもう1つ重要な点としてテック企業としてバックオフィスにおいても最新のAIテクノロジーを活用することを考えていたからです。」と石井氏は振り返る。
次ページ以降では同社が導入した顔認証の具体的な仕組みやメリットについて紹介したい。
ICカードに関する運用管理が大きな負担に。
これまで導入されていたICカードシステムは、カードの盗難・紛失の恐れがあるほか、貸し借りによる他人へのなりすましにも不安があった。ICカードを自宅に置き忘れる従業員も少なくはなく、グループ総務部ではそのたびに一時貸出用カードの手配や紛失の際の再発行、それらの運用管理に大きな負担を強いられていたという。
また同社では勤怠管理システム「ジョブカン」を利用していたが、入退室管理とは別々の運用になっていたため、ビル入口でのカードタッチに加え、オフィス入口でのジョブカン用リーダーへのカードタッチ(打刻)も必要だったことも大きな課題となっていた。
「うっかりミスやタッチの不具合などで打刻漏れが月間500件ほど生じており、労務管理部門からの確認作業でも大きな負担が発生していました。さらに拍車をかけたのがコロナ禍での温度検知作業です。テレワークと並行して、常に一定数は出社してくる従業員がいましたので、温度検知作業を行うと朝の通勤時には入口付近が渋滞するリスクがありました」と、石井氏と共にシステム選定に当たった同社の髙橋 達也氏は話す。
そこで同社は、カードなしでも円滑な入退室管理が行える生体認証の中でも、非接触かつ温度検知も同時に行うには「顔認証」がベストだと判断。既存の勤怠管理システムと連携でき、管理負担が少なくスケールも容易なクラウドサービスのソリューションを導入しようと考えた。
最初の比較検討時には5社ほどの顔認証ソリューションが浮上したという。「しかし、温度検知、ジョブカンとの連携、クラウドサービスという条件を同時に満たせるのは、日本コンピュータビジョンのソリューション以外には見当たりませんでした」と髙橋氏は説明する。
顔認証を活用したトータルソリューション。
ソフトバンクのグループ企業である日本コンピュータビジョンは、AI画像認識技術をベースとした製品・ソリューションを幅広く提供している。その中でも認識精度99%以上という世界最高レベルのAI技術で入退室管理を実現するのが「ビルディングアクセスソリューション(顔認証)」だ。
最大2万人の顔データを識別する顔認証デバイスは、既存のゲートやドアに簡単に装着でき、管理者向けのダッシュボードに表示される各種管理機能はセキュアなクラウドサービスとして提供される。
独自のアルゴリズムで、デバイスに顔を近づけるとマスクを付けたままでもわずか0.5秒以下で顔認証が行えるため、行列ができないスムーズな入退室を実現。最初に正面写真1枚を登録するだけで、経年変化や表情の違い、髪型の変化やメガネの有無などもAIが正しく認知し、高い精度で本人認証が行えるのが特長だ。
赤外線カメラによる生体検知機能によって、印刷物や写真をかざしても認証はしない。必ず生きた人間かどうかを判断するため、なりすましはほぼ不可能となっている。
外部API連携機能により、ジョブカンを始めとする各種サービスとも連携できるほか、顔認証と同時に±0.4℃の精度で体温測定が可能なサーモカメラが付いたソリューションも用意されている。
「ビルディングアクセスソリューションは、まさに当社が求めていたすべての要件を満たすソリューションでした。検証機を使ったテストでもスピーディーで精度の高い認証結果が得られ、サブスクリプションなクラウドサービスとしてコスト面でも満足のいく試算が出たので、導入を決断しました」と石井氏は話す。
生体認証ではセンシティブな個人情報を扱うため、システム導入に際しては通常、経営層や従業員に納得のいく説明をする必要がある。だがレアジョブの場合、そこは問題なくクリアできたという。
「顔画像データは暗号化された上で保存されるので安心して使えると判断しました。当社はテック企業として、常に新しいものを積極的に取り入れ、変化を生み出す社風があります。そのため、経営層や従業員からも導入に際して不安の声はありませんでした」と、石井氏は説明する。
2021年12月から稼働を開始した顔認証システムは、ビルのエントランスに温度検知機能付きカメラ、また業務部門ごとに分かれた執務室の入口にも、それぞれ認証デバイスを配置し、各部屋に入る権限のある従業員だけが入退室できる仕組みとした。
年間150万円のコスト削減が可能に。
導入成果は期待以上に大きかったという。
「まずICカードシステムでは不可避だったカード忘れや紛失に対する対応負担がゼロになりました。ジョブカンと連携した勤怠管理は執務室入口の顔認証で行いますが、特別な動作をすることがないため打刻漏れが激減し、労務管理上のトラブルも大幅に減りました」(石井氏)
従業員からの評価も高い。「いちいちカードを取り出す必要がないのでストレスもなく、とても便利になったと皆が本当に喜んでいます。特に雨の日にランチに出たり買い出しに行ったりした際などは、傘や弁当で両手が塞がっていても顔をカメラにかざすだけなのでスムーズで助かります」(髙橋氏)。
コストメリットも大きい。従来のICカードシステムでは、カード発行やシステム運用、加えて前述の勤怠管理などの労務管理上のトラブルにかかるコストや処理工数が発生していたが、クラウドサービスへの移行によって、年間150万円のコスト削減が可能になった。グループ総務部が担当していた間接業務がなくなったため、グループ運営やM&Aなどに関連した本来業務に専念できるようになったという。
「当社では既存事業そして新規事業の拡大に伴い、フロアや拠点がどんどん増えていくことが予想されます。国内では入退室セキュリティや勤怠管理の仕組みも統一していく必要があるため、クラウドで容易にスケールできるこのソリューションは非常に有効だと考えています。またアフターコロナでは今以上に従業員の健康管理が経営戦略上でも重要なミッションとなります。日本コンピュータビジョンさんにはぜひ、入退室時に従業員の表情などから体調やメンタルヘルスを読み取り、AIでリスクを予兆できるようなソリューションを提案していただきたいですね」と、石井氏は期待を込めて語った。