こんな夢を見た
晴れているのに雨が降っていた
狐の嫁入り
母に見に行ってはダメよと釘をさされたけど
少年は見てしまったのだ
狐の行列を、夢(映画)の始まりを.........コンっ!
こんな夢を見た
雛壇に並んだお人形
実は桃の木の精霊たち
小さな妖精が少年のためだけに見せてくれた
切り倒された桃の木たちの最期の舞
少年の目から涙がこぼれた
もう(映画を)見れなくなったらとても悲しいから
こんな夢を見た
吹雪に見まわれた登山隊
薄れ行く意識のなかで
目の前にあらわれた雪女
雪は温かく、氷は熱い
世間の風は冷たく、意欲も衰えがちだ
ここで眠ったらおしまいだ
最後の気力をふりしぼり
目を開けたら風と共に女は消えていった
朝日を浴びてテントが雪の中に立っていた!
こんな夢を見た
シベリア帰りの中隊長
トンネルの中から規則正しい軍靴の音
カッカッカッカッカッカッカ
戦死したはずの一兵卒が
自分が死んだこともわからずに
黄泉の国から這い出て来たのだ
あわてて追い返すと今度は中隊全体が着いてきた
回れ右、全隊進め!!
俺のお迎えはまだ早い
こんな夢を見た
霧の立ち込める砂走りから表れた鬼
聞けば元は人間だとか
核放射能の影響で
背丈ほどのお化けタンポポが生えている
共食いして何とか生き延びている鬼たちも
生前のヒエラルヒーを守っているらしい
だけど霧がでたこんな日は
頭に生えた角がことさら痛むんだって
ざまあみろっ
こんな夢を見た
ゴッホの絵の世界に
迷い込んだ一人の画家
麦畑で熱心に写生するゴッホご当人を見つけたよ
なぜ描かない
もう時間がないぞ、急がなくては
足早に移動するゴッホを追いかける
巨匠黒澤のオルタナティブ
夕焼け間近の麦畑から
黒いカラスが一斉に飛び立った
こんな夢を見た
真っ赤に燃える富士山から
人々が悲鳴をあげて逃げ惑う
だけど本当に怖いのは
原発事故による放射能
ストロンチウムやセシウムに色を着けたはいいけれど
恐怖はかえって倍増だ
事情に詳しい原発職員
頭を深々と下げて海に飛び込んだ
富士山だけが逃げられず
噴煙上げて大激怒!
こんな夢を見た
清流豊かな安曇野で
水車の修理をする一人の老人
人間は便利な物を発明しすぎて
本当に大切なことを忘れてしまっている
賑やかな音楽隊と子供たちが
老人の初恋人の弔いを盛大に祝っている
生は苦とはいうけれどそれは人間の気取りじゃよ
生きていることは実際楽しい
三途の川の水がことのほか澄んで見えた....
夢
監督 黒澤明(1990年)
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