今日は2022年2月22日ということで、ニンニンニンニンニンニンでスーパー忍者の日。そこで忍者ゲーム特集第3弾として、富士見文庫から出版されたゲームブック「忍者への道」(カーティス・スミス著、大出健訳)をプレイしました。
AD&D待望の第5弾!
きみは忍者との闘いに生き残れるか!?
時は中世、蒙古襲来の噂がとびかい、忍者の暗躍がはびこる九州博多。長明先生の道場では、若いさむらいたちの卒業試験が迫っていた。きみは、恐るべき秘密がかくされた苛酷な試練に耐えられるか?
中世日本を舞台にした初のオリエンタルアドベンチャー・ゲームブック。
カーティス・スミス著、大出健訳「忍者への道」(富士見文庫)表紙折り返しより
主人公は長谷川庫之助という若き侍。吉村長明師範率いる日本最高の道場で、多くの仲間たちとともに日々厳しい鍛錬を重ねています。
そんな庫之助にもいよいよ卒業の日が近づいてきました。卒業のための最終試験はけして生易しいものではありません。そして卒業試験を乗り越えても、庫之助の前にはさらなる試練が待ち受けているのです。
博多城を守る戦いで命を落とした父の形見・黒太刀を手に、己の運命を切り開くため、庫之助は戦いに身を投じるのでありました。
富士見書房から出版されたAD&D のゲームブックシリーズの1冊なのですが、シリーズの他作品とは毛色が異なり、忍者を取り扱った作品となっています。
一応AD&D には、東洋風の世界を扱う「Oriental Adventures」や、忍者を扱うための「The Complete Ninja's Handbook」といったサプリメントがあり、忍者が登場すること自体は不思議ではありません。ただ本作は、Oriental Adventures で用意されたKara-Tur という地方ではなく、九州の博多を舞台として、ストーリーの背景として蒙古襲来が存在する、鎌倉時代の日本での冒険ということになります。
システム的には、シリーズ他作品と能力値の名称が違ったりする以外はほぼ同じです。
まずは生命点を30+1d で決定。これが0になると死亡します。
続いて3つの技術点、基礎体力点、注意力、剣術技量点を決定します。基本点はそれぞれ、12、14、16となっているので、これに自由に使用できる6点を割り振っていきます。ゲーム中では、この技術点にサイコロ1個を加え、一定の数値以上なら成功といった感じで判定していきます。
そして最後に経験点を、サイコロ1個を振って決定します。判定の際に経験点を消費すると、その分だけサイコロの目にプラスすることができるようになります。
まずは普通にプレイしてみたのですが、最初の1回でクリア出来ちゃいました。ただ、けして簡単だったわけではなく、結構ギリギリのところを渡り切った感じですかね。
このシリーズはいわゆる戦闘システムみたいなものはありません。もちろんテーマがテーマなので戦闘シーンは多いのですが、サイコロを振り合って勝った負けたというような単純なものではなく、一つの戦闘の中でもどのように行動するかをいろいろと選択していき、技術点での判定を繰り返し、生命点を削りながら状況が有利になるよう進めていかなくてはなりません。技術点による判定もなかなか簡単ではないので、運の要素も必要になりますし、経験点を投入するタイミングも重要になってきます。
で、この戦闘シーンがかなりスリリングなんですよね。
戦闘中の行動の選択もあまり指針がないというか、敵の正体がわからないケースも多いので、その場その場で臨機応変に対応する必要があります。敵の生命点も見えないのでどこまでやれば勝てるのかもわかりませんし、そのくせこちらの生命点は結構ガンガン削られるので(なんなら判定に成功したのに減ることだってあります)、事態が落ち着くまでは息をつくこともできません。
厳しい状況に追い込まれながらも、なんとかしのぎながら血路を開いていく。この剣が峰を渡っていくスリルこそが、本作の最大の魅力だと思います。
そしてやっぱり気になるのは、日本文化の描写がどのくらいリアルなのかというところですね。その辺り、結構頑張って書いているなー、というのは、とてもよくわかるんです。正直、思っていたよりはかなりちゃんと日本を描写できていると思います。でも、どうしても違和感を覚えずにはいられない場面も散見される、といった感じですかね。そもそも戦闘シーン多めの作品なので、あんまり日常風景の描写が少ないということもあるかもしれませんけど。
そもそもの問題として、鎌倉時代にいわゆる「忍者」という存在があったのかどうかということがあります。忍者の起源というのははっきりしておらず、一説には平安時代頃とも、あるいはもっと古く、聖徳太子の部下が忍びの起源だとも言われています。しかし、忍者の存在が資料で明確に確認できるのは室町時代以降となっており、鎌倉時代には忍者の原形のような存在はいたのかもしれませんが、本作で描かれているような忍者はまだいなかったでしょうね。
他に気になった点としては、庫之助が自分の部屋に鍵をかけたり(戸の開閉を妨げる心張り棒とは別に、障子や窓にまで鍵をかけています。どういうタイプの鍵なんだろう?)、明治時代にようやく日本に入ってきたマンゴーやゴムなんかが出てきたくらいですかね。登場キャラの名前も、明治時代辺りなら問題なさそうだけど、鎌倉時代的にはどうなんでしょうね?
あと、難点というか、何と言うか、ちょっと微妙なんですけど、ストーリーについて。
まあここまで、一応ネタバレに配慮して言葉を濁しながら書いてきたんですけど、そもそもタイトルで思いっきりネタバレしてるんですよね。確かに本編での主人公視点では敵の正体とか目的とかは謎なんでしょうけど、このタイトルを見てからプレイしている読者からすれば、「まあこういうことなんだろうな」というのがとても分かりやすくなっているんですよね。
ちなみに、原題は「Test of the Ninja」。邦題とちょっとニュアンスが異なりますが、こっちの方がもっとストレートですね。どうせ原題からちょっとだけ変えるなら、「忍者」というキーワードは外せないとしても、「謎の忍者軍団」とか「忍者の影」とか、もうちょっと濁したタイトルにした方が良かったんじゃないかと思います。
これ、時代設定を幕末くらいにしていたら、まだそれっぽかったような気がするんですよね。舞台を地方の小藩の藩校とかにして、元寇を黒船に置き換えたりして。ただ、それだと時代が新しすぎて、ファンタジー性が少なくなっちゃいますかね。
江戸時代以前なら、日本にとって対外的に最も大きな危難はやっぱり元寇だと思いますので、そのインパクトが必要だったのかもしれません。
AD&Dのシリーズなので、最初はもっとトンデモ・ジャパネスク・ファンタジーになっているかと思っていたのですが、あにはからんや。完璧とは言えないながらも、なかなか頑張ってリアル路線のジャパニーズ・ゲームブックに仕上がっていました。
とは言え、やっぱりそっちの路線も読んでみたかったかなー、というのも正直なところ。近年では情報の入手も容易ですし、その筋のマニアも増えており、考証のしっかりとした作品も多くなっています。でも、そういう作品は日本人でも作れるんですよね。海外の人には、日本人には思いもつかないようなタガの外れたニッポンというのも、もっともっと描いて欲しいと思います。
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