寒い冬の夜はミステリーがよく似合う。と、いうことで、ミステリーゲーム特集と題して、推理系ゲームをプレイしました。
第1弾は、「アビントン・フリス村事件簿 イラストミステリー」(ローレンス・トリート著、ジョージ・ハーディー画、土屋政雄訳、中央公論社)。イラストに描かれた事件現場の様子から、事件の真相を推理するゲームブックというか、クイズブックです。
親愛なる読者の皆様
ハンフリー・ブラック氏が惨殺されました。殺害現場はチューダー・クロース館。その不可思議な死の真相を解明するため、ぜひ皆様の力をお貸しください。
このブラック氏という人物は、イギリスのある海辺の小村、アビントン・フリスの旧家の出身です。ある朝早く死体で発見されたのですが、警察はまだ犯人を割り出すにいたっていません。
アビントン・フリス警察のディムウィディ巡査は次頁の6人の人物を疑っています。いずれもアビントン・フリス村の生まれか、同村に長く暮らしてきた、いわば地元の人たちばかりなのですが、その生い立ちや経歴に怪しい部分も多く、容疑者となる資格は十分といえましょう。
ディムウィディ巡査は、彼が今まで警察官奉職中に取りあつかったすべての事件の中から、この6人についての1冊の「事件簿」をつくりました。この「事件簿」には、6人の容疑者または彼らの近親者が何らかのかたちで関係したと考えられる、すべての事件が収められています。これらの事件の多くについては、ディムウィディ巡査なりに有罪または無罪の判断をしましたが、中には同巡査には判断しかねたものもあります。
虚心たん懐に、この1冊の「事件簿」を子細に検討すれば、必ずやブラック氏殺害犯人も突き止められる……ディムウィディ巡査はそう信じて疑いません。お力添えを願うため、これから皆様にもその「事件簿」をご覧いただきますが、すべての事件は発生順に並んでいることをご承知おきください。ディムウィディ巡査が、老婆心ながら、事件の着眼点などを質問の形で書き添えてくれました。ベテラン警察官のことですから、目のつけどころなど、ずいぶんと参考になるのではないでしょうか。同巡査によれば、犯罪学は精密科学ではないのだそうです。「事件に100%確実なことなどなにもない。あるのは可能性と確からしさだけなのだ」これが同巡査の口癖です。
読者の皆様は:
1.メモ用紙と鉛筆をご用意ください。
2.事件記録を読み、現場の光景をじっくり観察してください。
3.つぎに質問に答えてください。まず質問全部に目を通し、問題の要点をつかんでおかれるとよいでしょう。質問に答えるときは、できれば、どんな手がかりによってその答えを得たかも明示してください。
4.質問の終わりに示されているページに、「答」があります。謎ときに自信がない方は、1つ答えるごとに「答」と突き合わせていかれるとよいでしょうし、ベテラン探偵を自任される方は、全部答え終わってから「答」に当たられるとよいでしょう。
5.質問に答えればそれで終わり、というわけではありません。まだ事件の真相解明という大仕事が残っています。巻末の「真相は?」ですべてが明らかにされますが、見事解明できた方は、おめでとうございます。でいなかった方は、またつぎの事件でがんばてください。
幸運を祈ります。
「アヴィントン・フリス村事件簿 イラストミステリー」より
本書はアビントン・フリス村の警察官・ディムウィディ巡査による捜査メモを元に、村で起こった事件の真相を推理していくクイズブックです。
元大学教授のアルバート・プラム、自称牧師のホレイショ・グリーン、元サーカス団員のシンシア・スカーレット、故パーシー・ピーコックの夫人ペネロピ―・ピーコック、元俳優で「大佐」と呼ばれているアイバー・マスタード、そして料理の得意なベリル・ホワイト。
彼らは、アビントン・フリス村に住む6人の――まあ、悪人と言っちゃっていいですかね。彼ら6人は村で起こった事件にたびたび関わっており、ときには有力な容疑者ともなっていたのですが、かろうじてディムウィディ巡査に確実な証拠を握られることなく、現在に至っています。
しかしハンフリー・ブラック殺害事件が発生するにおよび、ついにディムウィディ巡査は捜査に本腰を入れることになります。ブラック氏の殺害だけでなく、過去の事件を総ざらいすることで、真犯人に法の裁きを受けさせることを決意したのでありました。
問題は全部で26問。ちょっとイレギュラーな問題もありますが、プラムが教授として大学に赴任する前という結構古い事件から、事件が発生した時系列順に出題されていきます。
一部例外はありますが、1つの事件について、見開き2ページを使って出題されます。バーンと大きく、事件現場のイラストが描かれ、事件の概要が説明されます。被害者は誰か、被害者とその周辺の人間関係はどんなだったか、現場の様子はどんなか、何が落ちていたか、などなどです。
問題は2段構えになっています。まず事件に関連して、10個前後の小問題が出題されます。「〇〇である証拠はあるだろうか?」とか、「〇〇に動機はあるだろうか?」とか、「〇〇をしたのは□□だろうか?」など、多くはYes / No で答えられる問題です。イラストや状況などから、まずはこの小問に答えていきます。
小問に答えられれば、事件の全貌がおおよそつかめてきます。これらを踏まえて、最後に事件の真相、すなわち、誰が犯人なのか、どのように犯行が行われたのか、どうやって証拠を抹消したのかなどを答えます。
小問群の答えと事件の真相は別のページに記載されているので、段階を踏んで推理していくことができます。
全部読み切りましたけど、結構難しかったですね。自力で分かった問題もありますけど、回答したものの間違えていたり、よくわからなかったから答えを見たりした問題も多いです。
難しいポイントとしてはまず、イラストがちょっとわかりにくいということがあると思います。あまりリアルなタッチではないので、確かに描かれてはいるんですけど、何を表現しているのかわかりにくい部分があるんですよね。そう言われたら「そうかな」と思いますが、言われないと何のことだかよくわからなかったりするのです。解答を読んでから「ああ、これって〇〇だったんだ」と気づくこともしばしばありました。
同じような意味合いですけど、「常識」がわからないので、おかしいのかどうか判別できないという点もあります。イラスト中に描かれている物が、問題的には「おかしな点」なのですが、外国の、少し昔の風景なので、本当におかしな点なのかどうかはっきりしないんですよね。
あと、解答にも一部納得しにくい部分があるというか、確かにそう解釈することもできるけど、そう断定できるほど明確な証拠があるわけでもないよなぁ、ということもちょいちょいあります。まあそこは、あくまでも推理なので、問題ないのかもしれませんけれど。
そして、それらの集大成が最後の問題。正直、答えを見た時の感想は、「わかるかー!」って感じでした。
確かに解答を見てから問題を見直すと、それっぽいヒントは描かれているのですが、問題だけから解答にたどり着くのはまず不可能でしょう。ものすごく飛躍した推理をすれば正解できないこともないのかもしれませんが、「間違いなくこれが正解」と断言できるほどの根拠はないと思います。
ただ、あまりにも飛躍していたので、それはそれで面白かったですけどね。最後の問題に限りませんけど、犯人にも人間的な面があり、犯行に至るまでの状況とか、犯行の様子とその結果など、お話としてもそこそこ楽しめました。
そんなわけで、ガチで問題を解きにいく推理ゲームとしての完成度はそれほど高くなかったと思いますけど、推理読み物としてはまあまあ楽しめました。ちょっとおかしかったり、理解しにくかったりしても、そういうものだと思って適当にスルーするのが吉だと思います。
それはそうと、本書に収録されている事件には盗難もいくつかありますが、大部分の事件では人が亡くなっています。これだけ人死にが出ているんだから、ディムウィディ巡査ももっと早く本気の捜査に踏み切った方が良かったんじゃないですかね。
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