●試読
【平成二十七年 改訂版電子書籍】 山の辺書房かしはら出版編集室 刊
大台ヶ原
妖怪伝説・狼夜話・登山日誌
杉 岡 昇 著
大台ヶ原 妖怪伝説・狼夜話・登山日誌 縦書き: youkaidensetu ookamiybanashi tozainitushi tategaki (紀行文)
作者: 杉岡昇
出版社/メーカー: 山の辺書房かしはら出版編集室
発売日: 2015/03/16
メディア: Kindle版
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【第二部】※第一章は電子書籍として販売中
もくじ
第二章
?田垣内政一大台教会二代会長との出会い 四
代表的な大台ヶ原伝説
牛石伝説 一〇
笹馬伝説 一二
一本足伝説 一六
オオカミ夜話 三一
オオカミ外伝 三六
川辺神社について 四五
その他のオオカミ談 四七
杉岡昇の大台ヶ原登山日誌 五四
大台ヶ原の自然 七五
女学生の大台ヶ原登山 九四
大台の過去・現在・未来 一〇〇
あとがき 一〇四
ウォーキングマップ 巻末
[参考文献]
大台ヶ原開山記「古川嵩伝記」鈴木林著
世界の名山・大台ヶ原山 大台教会本部発行所 岡本優治著
新高八十年史 新高八十年史編纂委員会
日本伝説大系 渡邉昭五編
上北山村の昔話 上北山村発行
日本狼 村上和潔著
下北山村史 木村博一編 下北山村発行
古事記…中巻… 河出書房版
第二部
田垣内政一(まさかず)大台教会二代会長との出会い 昭和三十八年十月二十一日、国鉄紀勢本線新宮駅から始発の各駅停車名古屋行に乗り船津駅で下車。そこから山奥へ延々と続く九十九折りの林道を独りで黙々と歩いた。途中、大杉谷に下りて千寿の滝やニコニコ滝を見ながら沢を遡り、川沿に建つ宿泊施設「桃ノ木小屋」に到着。一泊。
翌朝七時に小屋を出て、川沿いに登山道を辿る。目前に次々と現れる個性豊かな滝を見ながら堂倉へ。そこからはシャクナゲの林だ。登るにつれて、樹木の紅葉が美しさを増し、その見事な風景がしばし疲れを忘れさせてくれる。
昼頃、大台ヶ原頂上「日出ヶ岳」に着く。
弁当を食べながら、標高一六九五メートルからの展望に心が和む。
午後二時頃、大台ヶ原大駐車場着。
ある程度予想していたが広大な駐車場は、マイカーやバイク、観光バスでうめつくされていた。そこには、およそ登山とは縁のないハイヒール履きの女性や革靴を履き背広姿の男性たちが闊歩していた。男性の中には酔客の上機嫌な姿もちらほら散見。そ
の様は下界の観光地と変わらない。私のような本格的登山姿の者は殆ど見うけられない。なにか場違いの処にまよいこんだようで浮き上がってしまった。
酔っ払いにからまれながら人混みを縫うようにして、予約していた宿「近鉄山の家」に向かった。
その途中のことである。駐車場の端のところで[大台教会]という看板を目にした。これまで幾度もこの場所を通った筈だが、この看板を見るのは初めてで、
……こんなところに教会が…キリスト教会か? 深い意味なくそう思った。
その教会にお世話になったのは、後日の登山時。当初キリスト教会と決め込んでいたが、尋ねてみて[福寿大台教会]という神道の教会だった。
教会には、登山者の宿泊施設が用意されていて、一晩お世話になった。そのとき初めて二代目会長、田垣内政一先生にお会いした。
田垣内会長は、やさしい山小屋のおじさんといった感じで、偉ぶるでもなく、大変温厚な人柄だった。
政一先生は、明治四十年三月十五日、奈良県吉野郡下北山村の田垣内政蔵氏の長男として生まれ、大正十年三月二十五日、十七才という若さで大台教会の創始者であり又初代会長であった古川嵩行者の門徒として大台ヶ原に入山。教務に励む一方、奈良県の依頼を受け気象観測等に従事した。
わたしが初めて大台教会に泊めていただいたその夜、ほの暗い石油ランプが灯り、薪ストーブが置かれた部屋で大台ヶ原にまつわる[一本たたら伝説]や[牛石ヶ原伝説][笹馬伝説]などを、身振り手振りを交えて夜の更けるまで語ってくれた。話の途中で何度もストーブの陰からヌーと顔を出してくるのでその度にビックリさせられた思い出が残っている。
政一先生は、小柄で柔和な雰囲気を持ちながら、山椒は小粒でピリリと辛いという諺の如く、自然に対する畏敬の念と、強い自然愛の信念を持っておられた。
昭和四十五年の夏には、自然公園指導員としての業績を高く評価され貢献者として大臣表彰された。
先生は常に、
「教会は特定の個人のものでも、また、団体のものでもありません。この大台ヶ原に登って来られた方々のものです。但し、大台ヶ原の自然は大切にして下さい。教会はこの素晴らしい大自然を学ぶ道場でありますのでな」
と、訪れた登山者に話すことを忘れなかった。
最後に、この山に暮らす動物や草花の代表的なものを、イラストレーター永原靖子氏のカット画で掲げておきます
あとがき
日本百名山の一つであり明治以来、古川嵩行者によって開山された後は多くの老若男女が登り続ける大台ヶ原。この有名な山について筆者よりも知識ご経験をお持ちの諸先輩方を差し置いて無謀にも出版を敢行した愚行を恥じつつ、大勢の友人知人の協力と励ましを頂き、何とか目的を達成できたことはこの上ない喜びです。
出版にあたり筆舌に尽くせぬご指導ご協力を頂いた郷土史家で「開山記」の著者鈴木林先生はじめ、写真その他を提供して下さった小渕義明氏・樋口義也氏、又、取材協力や各種資料提供等で大変お世話になった北山村上桑原の神林康幸氏、上北山村役場教育委員会の皆様方、なかでも道案内などの労苦を快諾して頂いた天ヶ瀬村出身の岩本氏には感謝にたえません。
最後に、本づくりのノウハウを親切丁寧にご教示くださった山の辺書房かしはら出版編集室代表、よしいふみと氏、イラストレーター、永原靖子氏およびスタッフのみなさんに心よりお礼申し上げます。
平成二十二年 晩秋 杉岡 昇
大台ヶ原 妖怪伝説・狼夜話・登山日誌 縦書き: youkaidensetu ookamiybanashi tozainitushi tategaki (紀行文)