シャアのしたたかな生き方に学ぶ心のタフさ
「クールさを成立させる準備の大切さ」「上司を動かす交渉術」「部下のやる気を高める小さな言葉」。以上、3つの観点からシャアのリーダーとしての才覚に迫りました。この3つだけでも、リーダーという仕事の複雑さを思い知り、上司の仕事を日々されている皆さんのご苦労が身に沁みます。
コーチングや研修を通して、リーダーをサポートすることが私の使命です。そこでシャアの「生き方」から、現役リーダーの気持ちを少しでも軽くする考え方を、以下に記します。
シャアの本名は、キャスバル・レム・ダイクンです。父はジオン公国の初代首相であるジオン・ズム・ダイクン。父親はデギン・ソド・ザビの陰謀によって殺された。そう教えられシャアは育ちました。ザビ家が率いるジオン軍に所属していた彼の真の目的は、ザビ家の滅亡です。シャアは自分の素性とその真意を隠すために、名前を変え「仮面」をつけていました。
心理学に「ペルソナ」(役割性格)という概念があります。「ペルソナ」はラテン語で「仮面」を意味します。人は誰もが、その時々の状況にあわせて自分の「役割」を果たそうと、外に見せる自分の性格的な要素を変化させ現実に適応しようとしています。
ミドル・マネジャー(中間管理職)は、「上司」ですが、役員が現れれば「部下」になります。部下の前ではふんぞりかえっていても、役員がくれば多くの人は腰を低くします。妻の前では「夫」らしく、子の前では「親」らしく振る舞おうとするでしょう。会社でこわもての威厳ある部長が、病気をして病院いくと医師を前にして、まるで「子ども」のように甘えることがあります。
「上司」「部下」「夫」「親」など、外的な状況にフィットしようとみせる多様な自分が「ペルソナ」です。私たちは無意識に、仮面をつけ替えるように「ペルソナ」を上手に使いわけて生きています。
会社で部長で、家に帰っても部長。妻や子を前にして、話を聴こうとせず、会社と同じ命令口調であれこれ指示ばかりする。これはひとつのペルソナ(部長という役割性格)が固着し、人格が硬直化した結果です。人間的なしなやかさを失い、心はそれを正そうと何かしら問題を引き起こします。
つまり、上司(リーダー)とは、人生における、ひとつの「ペルソナ」に過ぎないのです。
私たちは人生のより多くの時間を会社で過ごすために、「上司」というペルソナが固着しやすい環境を生きています。人間的な「一貫性」や「ブレないコト」は評価されます。ですが、シャアが仮面をつけて、「真の目的」を別にもち"したたかに"生き抜いたように、ニ手三手先を考え、ひとつではなく二つ三つの「生きる目的」を準備し、それを自覚し、そのどれをも肯定できる「しなやかな人間性」を形成していくことが、私たちをタフに、そしてシャアのようにクールにしてくれます。
会社で成果をあげられず低い評価を受けても、親や夫としてダメだということではありません。まして人間として劣っているということではないのです。
「役割」と「人間性」を切り離して考える。そうした自己に対する多面的な評価軸をもつことが、心のタフさにつながり、リーダーシップに力を与えてくれます。台風一過に凜とたつ雑草たちは、硬いから強いのではなく、右に左に"しなやかに"揺れるからこそ強いことを忘れたくありません。
【著者】松山 淳(まつやま じゅん)
リーダーシップ・スタイリスト/コンサルタント/MBTI認定ユーザー。約9年間広告代理店に勤務後、アースシップ・コンサルティング設立。世界の企業が活用するMBTI自己分析メソッドを用い、リーダーたちがその人らしいリーダーシップを発揮できるようにサポートする。「リーダーの自己成長を支援し 人と組織を元気にすることで 世界の家族にたくさんの笑顔をひろげる」を使命に、リーダー層(経営者、起業家、管理職)を対象とした個別相談、コーチング、研修、講演、執筆活動など幅広く活躍中。おもな著書に『バカと笑われるリーダーが最後に勝つ』、「『機動戦士ガンダム』が教えてくれた新世代リーダーシップ」などがある。