TPP協定において慎重な検討を要する事項
2011年11月
外 務 省
物品市場アクセス
●TPP交渉においては、高い水準の自由化が目標とされているため、従来わが国が締結してきたEPAにおいて、常に「除外」または「再協議」の対応をしてきた農林水産品(コメ、小麦、砂糖、乳製品、牛乳、豚肉、水産品等)を含む940品目について、関税撤廃を求められる。
●米豪、米韓FTAのように医薬品分野に関する規定が置かれる可能性がある。
原産地規制
●TPP協定において、わが国特有の品目別規制と異なり、農林水産品で輸入原材料を用いた場合も原産品と認めるルールとなる場合、TPP参加国以外の国からん輸入原材料を使用した産品が輸入される可能性がある。
●原産性の証明制度については,わが国が採用していない完全自己証明制度(全ての輸出者等が原産地証明を行うことを認める制度)などが採用される場合には、企業を始め全ての輸出者等が自主的に原産性の確認を行う体制づくりが必要となるとともに,本来ならば原産資格を有しない産晶が,協定に基づく有利な条件で輸入されることを防ぐ観点から,適切な運用の確保を検討することが必要ある。
貿易円滑化 特になし
SPS (衛生植物検疫)
●WTO・SPS協定上の権剰義務の変更が求められるおそれがある。例えば、「措置の同等」と「地域主義【注】」についそ,ルールが一律に遷用されるおそれがあるが、WTO・SPS協定に従って、個別案件毎に科学的根拠に基づいて慎童に検討することが難しくなる。
【注】地域主義
病害虫発生国であっても、清浄地域(病容虫の発生していない地域)において生産されたものであればその輸入を認める概念。
●SPS措置について国際基準との調和を一般的に義務付ける規定が盛り込まれるような場合には、WTO・SPS協定上の各国の権利の行使が制約を受ける恐れがある。
(例えばWTO・SPS協定において、科学的に正当な理由がある場合は国際基準に基づく措置によって達成される検疫上の保護水準よりも高いレベルの措置を導入・維持できるとされている。)
●個別品目の輸入解禁や輸入条件の変更こついて、従来よりTPP交渉参加国より要請されてきた案件が、交渉参加のための条件とされ、あるいはTPP協定に付随する約束を求められる場合には、わが国が適切と考える検疫上の保護水準が確保できるよう慎重な検討が必要となる。
TBT (貿易の技術障害)
●透明性に関す規定
規格策定段階において相手国関係者の参加を認め、自国民と同じ条件での関与を認める旨の規定が設けられる場合、わが国はこうした運用を行っていないため、わが国の手続きの変更が必要となる。
●個別分野における規定
現時点では議論はがないが、仮に個別分野別に規則が設けられた場合、例えば遺伝子組換え作物の表示などの分野でわが国にとって問題が生じる恐れがある。
貿易救済 (セーフガード措置等)
●TPP協定交渉参加国のニ国闇FTAでは、従来の我が国のEPAと比べてセーフガード捲置の発勲が制約される規走内容【注】となっており、同様の内容がTPP協定に盛り込まれることとなる場合には関税の引き下げによる輪入増加が国内産業に被害を及ぼすのを防ぐためのセーフガー措置も発動できる条件が厳しくなる可能性があり、その場合は、セーフガード措置も発動しにくくなる。
【注】貿易救済分野の規定でTPP。協定交渉参加国間のFTAと我が国EPAとの間に見られる相違点
①同一品目に対するセーフガードの再発動が禁止((我が国EPAでは再発動は可能)。
②セーフガードの発動期聞が関税撤廃期間に限定される(我が国EPAでは関税撤廃期間に限定されない)。
政府調達
政府調達については、TPP交渉参加国のFTAでも、協定が運用される機関、物品、サービス、基準額についてさまざまであるので、慎重な検討を要するかは一概に断定できないが、次のような点が挙げうる。
●調達基準額については、わが国とTPP交渉参加国との間に以下のような相違があることから、調達基準額の引き下げを求められる場合は、慎重な検討が必要になる。
①「中央政府機関」の物品、サービスの基準額については、TPP交渉参加国間のFTAの中には、P4協定、米豪FTA、米チリFTAのように、わが国の半分以下の水準のものもある。
②「地方政府機関」及び「その他の機関」のうちの一部(民営化企業など特殊法人)の建設サービスの基準額について、TPP協定交渉参加国のFTAの中には、米豪FTA、米ペルーFTA、米チリFTAのようにわが国のほぼ三分の一の水準のものもある。
●調達対象となる物品、サービスの範囲が広がる場合には、慎重に対応を検討する必要がある。
●仮に地方政府機関の調達対象がさらに拡大する場合には、特に小規模な地方公共団体においては、海外事業者との契約締結の可能性が著しく低いという現状に比して多大な事務負担を強いることにつながる恐れがある。
知的財産
●TPP協定交渉参施国間のFTAには,わが国法制度とは整合的でない、たとえば以下のような規定が存在するものがある。このような規定が採用される場合には、慎重な検討が泌要となる。
①持許: 発明の公表から特許出願するまでに認められる猶予期間を12ヶ月にする。
②商穣: 視覚によって認織できない標章(例えば音)を商標登録できるようにする。
③著作権: 我が国制度よりも長い期間、著作権を保護する。
④刑事手続: 著作権侵害につき職権で刑事手続をとることを可能にする。
⑤地理的表示: 商標制度を用いた出願・登録型による地理的表示を保護する。
●P4協定及び豪・NZ・ASEAN・FTAには、遺伝資源、伝統的知識および民間伝承(フォークロア)に保護を与えることを可能とする旨の条項が含まれているが,こうした規定が求められる場合には、慎重な検討が必要となる。ただし、これらについてはそもそも定義等の基本的な事項を巡って多数国間の場で南北対立が続いておリ、このような事項がTPP協定に盛リ込まれる可能佳は低い。
競争政策
●わが国EPAでは取り扱ったことがない以下のような規定が盛り込まれている場合には、わが国制度との整合性について十分な検討が必要になる。ただし、これらの規定は他の交渉参加国も簡単に受け入れない可能性がある。
①公的企業及び指定独占企業に関するルール
②事件関係人の権利を審査手続きにおいて確保する規定
③競争政策に関する規律を引下げるような規定(例:競争法の適用除外を明示的に容認する規定【注1】)
④競争政策の範囲に収まらない規定(例:消費者保護に関する消費者保護当局の協力に関する規定【注2】)
【注1】競争法の適用除外
P4協定にあり、特定の措置や分野を競争法の適用除外とすることを明示的に認めた上で、附属書でこれら措置や分野を列挙している。
【注2】消費者保護当局間の協力
消費者保護法に関連する事項につき、消費者保護当局同士が協力することを定める規定。米国の2カ国間FTAに規定があるが、わが国は、競争章は競争法とその執行や協力につき定める章であることから、消費者保護当局同士の協力については、競争章に馴染まないとの立場をとっている。
越境サービス
●これまでわが国のEPAにおいて自由化を留保してきた措置・分野について変更が求められるような場合に、国内法の改正が必要となったり、あるいは将来的にとりうる国内措置の範囲が制限される可能性がある。
●仮に、個別の資格・免許の相互承認が求められた場合には、これを行うか否かについて、わが国の国家資格制度の趣旨を踏まえ、検討する必要がある。
商用関係者の移動
現時点においては、特になし。
金融サービス
●これまで我が国は、WTO・EPAにおいてすでに高いレベルの自由化を約束しており追加的約束を求められる余地は考えにくい。他方、TPP協定交渉参加国間のFTAにおいては見られないものの、わが国との2国間の協議において提起されている関心事項(郵政、共済)について、追加的な約束を求められる場合には、慎重な検討が必要である。
電気通信サービス
●わが国の約束レベルは総じて高く、現時点では慎重な検討を要する可能性あるか否かは判断できない。
電子商取引
●わが国EPA(日本・スイス)の規定と内容が異なる点は、例えばデジタル・プロダクトの定義の範囲【注】電子送信に対する関税をかげないことをどのように規定するか関税をかけないことをどのように規定するか等がある。
【注】CDやフロッピーディスク等に固定されたプログラム等について、日本スイスEPAではデジタル・プロダクトには含まれないとしているが、米豪FTA、米ペルーFTAにおいては含まれると定義している。
投資
●これまでわが国のEPAにおいて留保してきた措置・分野について変更が求められるような場合には、国内法の改正が必要となったり、あるいは将来的にとりうる国内措置の範囲が制限される可能性は排除されない。ただし、過去にわが国が留保してきた措置・分野の変更が求められたことはない。
●「国家と投資家の間の紛争解決手続」 が採用される場合、わが国がこれまで締結してきたEPAや投資協定、エネルギー憲章条約と同様、外国投資家からわが国に対する国際仲裁が提起される可能性は排除されない。
ただし、過去にわが国が締結したEPAや投資協定、エネルギー憲章条約の 「国家と投資家の間の紛争解決手続」 に基づいて、わが国に対する投資紛争が国際仲裁に付託されたことはない。(「国家と投資家の間の紛争解決手続」 において最も多く利用されている仲裁機関である投資紛争解決国際センター(ICSID)によると、2011年6月末までに同仲裁機関に付託された案件の関連業種は、石油・ガス・鉱山業(全案件の25%)、電力等エネルギー産業(13%)、運輸業(11%)、上下水道・治水(7%)、金融業(7%)、情報通信業(5%)、農林水産業(5%)、サービス・貿易業(4%)、その他の産業(10%)となっている。
環境
●TPP協定交渉参加国が締結しているFTAの規定にはわが国のEPAに含まれていないもの(個人の申立てを可とする、環境法規の違反に対する制裁措置及び救済措置のための手続整備等)もあるが、これ.らの規定の内容は、わが国の国内法で概ね担保されると考えられる。
●海洋資源保全、野生動物、違法伐採に関する規定が盛り込まれる場合、わが国の漁業補助金やサメの漁獲その他の漁業活動等に係る国内政策との関係に留意する必要がある。
労働 特になし
制度的事項 特になし
紛争解決 特になし
協力 特になし
分野横断的事項
現時点では論議が収斂していないため、今後の議論を見極めたうえで対応を検討する必要がある。
TPP協定により我が国が確保したいルール