50のひとり言~「りぷる」から~

言葉の刺激が欲しい方へ。亡き父が書きためた「りぷる」(さざ波)を中心に公開します。きっと日常とは違った世界へ。

脇道の角から二店目の・・・

2015-02-18 20:16:28 | 小説
脇道の角から二店目の音楽の店へと折れ、クモは商店街の混雑に一歩していた。しばらくは右耳に曲の嵐。ジャズが後方に逃げ去る時、声の波がぐちゃぐちゃと左耳に凝る。「あらあっ」その波からよくとおる声が一個飛びだしてきたのだ。変声期前の少女の風に、
「おじさまあ」
ショウウインドウの前でたちふさがれたクモ、女は外人の女と見違えるくらいな女と見えるが、デパートの冷気に煽られて、胸で二つの大きな塊はいつもの暑苦しさがない。つまりクモにとって嫌味ではない女の胸なのだ、今日は姪は。

(つづく)

クモには、安らげる場は・・・

2015-02-17 20:20:39 | 小説
クモには、安らげる場は劇場だった。今日の舞台をひとしきり思いうかべながら佇んだ。宝飾店には根っから興味がなく、雑踏に愚痴るように、クモは耳目を殺したがった。
「日曜日だから仕様がない。早い目に家をでてきてよかったよう。開演に間にあえばいい」
とぼそぼそいった。劇場を遠く感じさせた人波を、クモはためいきまじりに憎みすらして、右耳にジャズをガンガン聴いて入った。

(つづく)

先程、クモはその劇場に・・・

2015-02-16 21:34:25 | 小説
先程、クモはその劇場に向かっていた。
クモは有名な宝飾店の角から、商店街の雑踏にでた。雑踏を目にしたクモはテレビを眺める風に思え、人の波に楽譜の坩堝を無意識裏にうかべている心持ちがした。ちょっと雑踏に入る楽しみもなくはない、だが安らぎのようなものはない。人出が過剰すぎるのだ・・・・・・。

(つづく)

「観劇のお邪魔・・・

2015-02-15 17:53:18 | 小説
「観劇のお邪魔しちゃった」
と彼。クモは思う。人間か動物かの瀬戸際から、動物の側に一歩外れていないだろうか、ぼくこそ・・・・・・とクモの目から見ていて、
「邪魔なものか。君のパパとは友人なんだから」
「劇場のロビーってくつろげますね」
若者の声に、クモはわけもなく感激した。ひょっとしたら感謝さえしなければならない。彼のいった彼女というのはクモの妻の姪なのだから。・・・しかし妻がどう思うだろうか・・・・・・。

(つづく)

わからなくはないがクモ・・・

2015-02-14 19:21:22 | 小説
わからなくはないがクモには、どうにも返答の言葉がない。曽根崎心中は舞台も活字にも何度か接してきていますが・・・・・・。若者の失礼を咎める勇気もない。
「父のお友だちと思ってつい・・・・・・すみません」
クモにすれば若者が、そうこなくては嘘だったのだ。友人の子息でさすがにおしゃれなとこは、買える。そういって冗長な話は好むところでないが、クモは次第に彼の話に今日の演目を置きかえさせられている。
「その田舎をでてきた口だがね」
といって笑う外ない、クモだった。

(つづく)