敏彦には、コメディアンの・・・ 2015-05-31 20:43:52 | 小説 敏彦には、コメディアンの口調はいいが、駅に着けば彼女の話の男がでむかえているはずなのだ。唯一人のでむかえは理恵の有名度から言って、さぞかしもの足りないだろう。それよりも敏彦が尾行男に早がわりしなければいけない。それを言うのだ、敏彦は。 (つづく)
電車はカーブを切ると、・・・ 2015-05-30 20:59:28 | 小説 電車はカーブを切ると、窓に市街地の風景をどっと流れこませていた。 「意外だな」 ビルの数に、理恵も意外感を抱く。十年ぶりの感慨が否応なくやってくるが、理恵はそれを抑える。そうしなくてはまた敏彦に叱られるだろうから、 「ほんとうに・・・・・・」 「大都会からやってきた里帰り夫婦。残念ながら、それは駅に到着するまでのお話です」 (つづく)
独身の理恵には倦怠こそ・・・ 2015-05-29 21:59:56 | 小説 独身の理恵には倦怠こそ敵に違いない。桜をともす岬のホテルを、故郷の宇礼市よりも待ち遠しく思われ、理恵はこう呟かされてしまうのだ。こう敏彦の気に召す風にも、 「独り旅でなくて、よかった」・・・・・・ (つづく)
互いに、岬ホテルに・・・ 2015-05-28 21:56:12 | 小説 互いに、岬ホテルに落ち着くまでは素顔が見せあえない。理恵は三十三歳で、彼女にとって敏彦は年下の先輩というところだが、あのホテルでは倦怠を遠退けていられそうに思えてきている。 (つづく)
おしのびの人気タレントは・・・ 2015-05-27 21:31:44 | 小説 おしのびの人気タレントは遊びと仕事の、そのどちらに傾いてもならない、周囲の声もBGMくらいに聞いていることだろう。そう耳にした彼の忠告に、理恵の逆らう謂われはないのである。走る窓につい熱い視線を注ぐ。 「見てみて、あれが岬ホテルよ」 (つづく)