御堂筋に佇んでは曲に乗って滑る和子を脳裏によぎらせると、・・・ 2016-05-29 22:52:05 | 小説 御堂筋に佇んでは曲に乗って滑る和子を脳裏によぎらせると、啓はあの時は美しい少女のようだったコートの肩に、ジーンズの腕を回した。突飛に耳を疑う声が聞こえている。「ルウレレルンルウルウ。あの曲、<ふしぎの森のイメージ>何か御堂筋に似合いそう」 (「南幻想曲」つづく)
啓はもう調子づいて、あの曲の続いている錯覚に任せながら・・・ 2016-05-21 07:37:06 | 小説 啓はもう調子づいて、あの曲の続いている錯覚に任せながら、「きっと春には御堂筋で和子さんに、げんげの花冠を贈ろう」と無邪気にも口走った。だが和子はげんげの花冠よりはどうやら初めて呼ばれた名の方に、感激していた。なぜならそのすぐ後、和子はこだわりがない調子で、「げんげ、て何の花?」と言うものだった。 (「南幻想曲」つづく)
スケーティング・リンクで話が弾んだ後は、 2016-05-14 20:23:34 | 小説 スケーティング・リンクで話が弾んだ後は、近くの店へとどちらからともなく誘って出かけていった。御堂筋にいってみないかと言う話になって、 「ぼくとしましては曲に乗って滑れた時より嬉しい」 と啓らしくない軽いジョークを飛ばしたもので、 「御堂筋は私の一番好きな街なんやわ」と和子は声を弾ませた。 (「南幻想曲」つづく)
もううつむくことはないだろう。・・・ 2016-05-04 06:32:39 | 小説 もううつむくことはないだろう。時どきここにこうして佇んでいたい。『楽しければ』 啓は脳裏の囁き声を訊いていて、和子はこうもらしている。 「<ふしぎの森のイメージ>ペアの曲ね」 啓は二十八歳だが、今日は会社の代休をとって、唯一の楽しみといってもいいだろうスケートをしに出かけた。啓はかって和歌山の南端の町から大学に入って中退、以来大阪でアパート暮らしだが、和子の方はこう言っていた。 「大阪の街を庭のようにして育ったわけ」 「センスが抜群や思った。音感がすばらしい」 「曲に乗って滑れるやなんて思わんかったわ。ペアはあなたが初めてなんやから、私は」 (「南幻想曲」つづく)