50のひとり言~「りぷる」から~

言葉の刺激が欲しい方へ。亡き父が書きためた「りぷる」(さざ波)を中心に公開します。きっと日常とは違った世界へ。

いつもご覧いただきありがとうございます

2014-12-31 08:59:38 | 小説
いつもご覧いただきありがとうございます。

今年(2014年)5月に亡くなった父への供養として、父が生前したためていた小説などを公開してみては、と思い、始めました。

父は若いころから文章を書くのがとても好きで、私が中学校から帰ると、原稿用紙に書いた小説を一枚見せて、「どうだ」とよく聞いてきたものです。

そのときは、下手の横好き、よくわからない文章といった印象しかありませんでしたが、私も年を重ねたためか、父がひがな一日机に向かって書き上げたものは、言葉に刺激や深みを感じることができるような文章ではないか、と今は思っています。

来年も毎日少しずつ連載していく所存でございます。

なお、誠に申し訳ございません。大みそかと三が日はお休みをいただきまして、1月4日から再開させていただきます。また来年は、閑話として、私のブログ的な内容も公開していく予定としております。

今後ともよろしくお願いいたします。

世間の男がむしろ・・・

2014-12-30 14:49:07 | 小説
世間の男がむしろ常態にしたもの・・・・・・本能的に余所者を遠避けたい気分は、英次の場合には女性をその余所者にしたがった。要するに優れるまれ人が周囲に受け入れられない裏返しなのだろう、英次のあり方は。しかしそれは平和郷とも、競争社会の辿り行く果ての餓鬼が住む郷とも?・・・・・・とまさか考えるはずはなくて、南側にある噴水には日陰が訪れていた。それから、よく今日は三時間も水晶宮で働いた。英次は頭がすっかり疲れた。もう夏服の男女の若い女の腕には、妙子の腕を英次は思いあわせる。リュックをやおら背負いながらベンチを立つ。女の腕が夕顔のように仄白く、英次の帰巣本能を呼んだのだろうが、その後ろに従って行く。二人の肩越しに見あげると市庁のビルを夕焼けが渡っている。やがて反り橋を、<公園前>のバス停に出て行った。英次を迎えたのは、広い交差点の街頭に吐き出されてひしめく人車であり、寂しさを感じた反動に似て、
「戦争」
と英次は喜んでいった。戦争だな、ここはと加えてそう思うのだった。

(つづく)

「人よりは嘘いわない・・・

2014-12-29 16:48:00 | 小説
「人よりは嘘いわない、公園で仕事をなさい」
実際には雄吉が、遊ぶことが英次の仕事になった・・・・・・それこそは最高級の人間、つまりホモ・ルーデンスと考えようと思うことに決めた、と加えたいものだったが、
「嘘いう人はだあいきらい。ぼく、噴水が好きなんだ。きらきらきれいだな」
虹が浮き立つ水晶宮にいつまでも住みたがり、虚ろにした身体をベンチに置いている。かといって夢のように、幼児の風景が脳裏に飛び交う外、三十五歳の栄光あるいは日常らしい風景は絶無なのだが、英次は身動きせず飽きなかった。遠い記憶をひたすら操った。ちょうど童話を読む大人のような、英次がいて、水晶宮には男の子しか住まない。世にいうマザコンの英次だからなんだろうか。その男の子は皆、おとなしい幼なじみが手品を好んでした。私塾に通い、宿題に取り組み、音楽を聞く英次がいる。小学五、六年生に始まり、中学生に至る生活を頭の中で再現するのだったが、日により延々二時間に及ぶことがある。先程のような旅行者は仕事の邪魔で、英次のもっとも虫好かなかったものだ。頭の中はいわば英次のオフィスなのであり、部外者の闖入ぞっとするほどの憎しみと共に嫌っていた・・・・・・正気でない男のすることだろう。果たしてそうだろうか。

(つづく)

老人と婦人の混成団体が・・・

2014-12-28 21:28:57 | 小説
老人と婦人の混成団体が連休の旅行中の、帰途で城址に立ち寄ったものらしく、疲労と倦怠を英次の周辺に漂わせる。噴水に憩う英次には邪魔なのだ。迷惑だった上に、四角い包みはその視界をさえぎっていた。その旅行者らは英次のリュックから見て、同じ旅行者の気易さのようなものを無意識に抱いたのだろう。それで英次のところに群れたばかりであるが、その中にも一人異種めく老女はいて、英次にある哀れを覚えていたのであった。疲労が滲む声そのものにも、英次は直情に虫好かないものだから、
「物をみだりに受け取るな」
とふと浮かんだことをいった。妙子の口調そのまま叫ぶように。怯む老女の細い腕が引っこみ、側の者らは潮のように引きさがって、老女を着物ごと誰かが抱きかかえるとその団体は散って行ったものだった。母のいいつけの効能に、英次が信頼を厚くする結果を残した、それだけで一人の老女を囲う旅行者の群れは去った。
彼らと互いに絆を確かめあうなどは、とても無理な話、所詮根なし草でしかなかった彼らが消えた後、英次はまたベンチに根を張るふうに落ち着いた。今度は、父雄吉の言葉が浮かんだ、オオム返しに吐いた。

(つづく)

「公園をぐるぐるする・・・

2014-12-27 20:26:06 | 小説
「公園をぐるぐるするのが、仕事ってわけか。作業服を明日から着てくることだ、そうしたら手伝わしてやるがどうだ・・・」
「・・・」
「英次くんが好きな毛虫も、それに若い娘に一目惚れされぬとも限らんし、親孝行ができるというもんだし、その上名札が生きてくる。先生のいうことを聞くもんだよ、英次くん。だが待てよ、仲間の意見を聞いて見ないことにゃ」
と山田は駆けて行く英次を目に捕えている。「おおい。おじさんは何もからかうつもりじゃなかった、それだけは覚えておくんだよ」リュックが見る見る遠くなる英次に向け、緑濃くなりつつ明るい道いっぱいに家族連れや、老人や若者がこちらにくると皆英次をふり向くのに構わず、彼の良心のようにそう投げかけた。
そして英次は、その山田が今は頭の外に捨てられ、
「それは仕事だからね、嫌なことがある。パパがいったけな。つらい」
つらいと息が弾むのを噴水の側で静めることにしたのである。残りのバナナをリュックから取り出し、むしゃくしゃと食っていたのだ。冷たさが喉に渡った。しゃあしゃあ、と噴水みたいと思った。
「あの、これ貰っていただけません」
と老女の声を聞いている。

(つづく)