雄造、伝言板に夏子のことだから告げ口をと思い、・・・ 2016-02-29 21:15:37 | 小説 雄造、伝言板に夏子のことだから告げ口をと思い、幸男は棒立ちになっていたのだ。「よおっ」と言って彼がきた。相席を強いていたが、一方的に話す口は単純な世間話を放出したばかり。 (「おしのび」つづく)
理恵が宇礼市を去る二日前、・・・ 2016-02-28 19:08:24 | 小説 理恵が宇礼市を去る二日前、雄造にも知られていないと知り、幸男は引いた血がもどる気分だ。木曜日、会社の帰路の夕ぐれに例の喫茶店にふらりと立ち寄っていたが、幸男の姿を見るなり彼が何とも獲物を狙った態度で、幸男の肝をつぶして、店内には相変わらずアイドル歌手の声が満ち、幸男の後悔を増幅させる。 (「おしのび」つづく)
キッチンにいそいそと去る道江。 2016-02-27 11:11:15 | 小説 キッチンにいそいそと去る道江。夏子のことはそれっきりになっている。この分では何も起こらなかったと幸男は思う。その反面、理恵のことでいつまでも、生涯かも知れないと思われる。夏子の言葉がキャスティングボードを握っているのだ。過去の恋人とは言え、道江の素直な気質とか思えば思うほど、幸男は心臓を傷めつけそうで、顔から血の気が引いていくのがわかる。小心な男が強盗に押し入れられた時のようだった。 (「おしのび」つづく)
「スーパーの特売場で夏子さんにであって、ご主人と・・・ 2016-02-26 20:00:13 | 小説 「スーパーの特売場で夏子さんにであって、ご主人と急に改まって言いだすから」 と道江が言って、居間に顔をのぞかせている。幸男は顔色が変わるのがわかるが、春子に目線をうつむきがちに送るのだ。 「春子はおりこうさんね。誕生日のケーキを買ってきましたよ」 (「おしのび」つづく)