エッセイ 熱中
東京に雪が降った。毎年1、2度は降るから珍しいことではないが、今年は大雪になり、家の周りは30センチ以上も積もった。
子供達がいた頃は、雪が降ると、交通の乱れや、滑りやすい雪道が心配だったし、私も買い物が大変、野菜の値段が上がる、雪は厄介なことだと思っていた。
だがこの頃雪が好きになった。降る雪を見ていると、見慣れた景色がだんだん変わっていくのが楽しい。
雪が止むと、一番にすることがある、積もった雪で、倒れそうになった植木を箒で払う。お辞儀をしていた枝が「苦しかった」とでも言っていたみたいに、すっくと頭を上げる。
面倒だった雪かきも面白い。
毛糸の帽子に長靴、炊事用のゴム手袋、そしてプラスチックの塵取りを用意する。
以前はスコップを振り回して張り切ったが、あれは腰と腕が痛くなる。その点塵取りはしゃがんだままで雪を放ることができる。
明る朝、新聞屋さんが配達に困らないようにと、降ってすぐの柔らかな雪を、一人分通れるくらいの幅を目安に、塀に積み上げる。一通り終わると体が汗ばんでくる。砂遊びや、小川の流れを変えるような、そんな遊びをした後のように疲れが気持ちいい。
2~3日たって車に踏まれた固い雪も、地面近くの水分を含んだ所に塵取りを差し込むと「ずー」といって塊が取れる。まるでカサブタがはがれるように。これを知ってから楽しく、退屈すると表に出る。
この頃近所の家から、退職されたご主人が「日中テレビも見飽きた」と、スコップを持って出てくる。
男性は気儘に少しの時間で切り上げるが、その音を聞くと何となくむずむずする。
雪かきは単純な仕事だが、私は熱中してしまう。どれだけのことをしたか成果が分かるので面白い。
心のどこかで「誰かが少し助かる、かな」なんて思いながら。
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