つつじの書・・

霧島つつじが好きです。
のんびりと過ごしています。
日々の暮らしを、少しずつ書いています。

エッセイ 仕付け糸

2017-05-16 10:13:01 | エッセイ

エッセイ 仕付け糸  課題 【新人・ベテラン】 2017.4.28

サークルの集まりに参加するため、朝の電車に乗った。
ラッシュの時間帯は過ぎてはいたがまだ混んでいた。
スマホに見入る若者、寝不足を取り戻そうとしているのか目を閉じている男性、吊革につかまってじーっと外の景色を見ている女性。
大勢の人が乗っているのに車内は静かだ。

座席には座れたが、遊びに行く私が席に座るのは少し気が引け、軽く目を閉じていた。

幾つかの駅を過ぎ、目の前に立つ人の入れ替えがあり、目を開けると、斜め前に立っている女性が気になった。
仕事の資料でも入っているのか、大きなバックが肩から何度もずり落ちそうなるのを抱え直している。
気になった事はもう一つある。
センスのいいコートのボタンが一つ掛け違っている。

私は勝手に想像した。
きっと忙しい朝を過ごしてきたのだろう。
仕事はバリバリと出来るが、家では反抗期の子供達に手を焼き、お弁当を作って送りだし、洗濯物を干し、夕食の準備も考え、職場に向かう途中なのだと。

幾つかの乗り換え駅で私の隣の席が空いた。
座る時軽く会釈をしたので「コートのボタンが」と話しかけた。
「あっ、ありがとうございます」
「朝は忙しいですよね」
何となく女性同士という空気が流れた。

昨年、やはり街歩きのサークルで四ツ谷駅の近くを歩いていた。
桜の花びらが歩道に散り、歩く人たちも賑やかだ。
前を歩くスーツ姿の男性が七~八人、研修にでも行くのだろうか、紺のスーツに白いシャツが初々しい。

列の後ろを歩く一人が気になった。
スーツのセンターに仕付け糸が付いている。
しばらくそのままついて歩いたが、思い切って「後ろに仕付け糸が」と知らせた。
振り返ったが仕付け糸の意味が分からなかったらしい、怪訝な顔をした。
素早く糸を抜いて見せた。
それを見て分かったらしい、恥ずかしそうにお礼を言われた。

息子と同じ歳ぐらいかな、こんなことがいつかあったけ。

  先生の講評 ・・・ ベテランと新人、服のわずかな乱れからの人間観察が細やか。
               ファッションは人間とおかれた状況を表す。
               話の結(下線)が利いている。

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