エッセイ クロちゃん
道一つ隔てたお向かいの家は、長い間貸家になっていた。
四~五年程たつと住む人が変わる。
古い家なので、そういう条件なのか犬を飼っている人が多い。
何年か前、家の建て替えとかで短い間だったが三世代の家族が住んでいた。
玄関前の駐車場に、ゴールデン・リトリーバーの大型犬がいた。
長いリードにつながれ時々何かにじゃれている。
玄関から家の人が出てくると、待ってましたというように、そばに行っては頭を叩かれる。
特におじいさんは掃除をしながら、「ちょ」と言って箒でも叩く。
ある時怒鳴る声がした。
開いた車のドアーから、犬が運転席に座って澄ましている。
小柄なおじいさんが大きな声を出しながらリードを引っ張って下していた。
ベランダに洗濯物を干す時、退屈そうな犬が見えるので声をかけるが無視される、
飼い主一家がすべての様だ。
その後に引っ越してきた人は、画家のご主人と看護師の奥さんだった。
子供さんはいなく、「クロちゃん」と言う大きな犬がいた。
クロちゃんはシェパードの血が混じった雑種だという。
時々、駐車場の小さな椅子に座った奥さんを、うっとりした顔で見上げ甘えている。
散歩で会った時に、「クロちゃん」と声をかけると、太ももの辺りに鼻をくっつけてぐんぐん押し付けてくる。
ある時窓の下を大きな動物が横切った。
見るとリードを引きずりクロちゃんが歩いている。
家の人は留守の様だ。
名前を呼ぶと近づいてくるが、なかなかリードを持たせてくれない。
少し怖かったが何とか捕まえて駐車場に繋いだ。
帰宅したご主人に報告をすると、奥さんが出かける時緩く結んだのが原因だと言う。
以前もそんなことがあって,探しに行くと公園に似た犬がいた。
「クロ」と呼んでも知らん顔をする。
「女の子達に囲まれて嬉しそうだった、ハハハ」と思い出したように笑った。
課題 【冬・自由課題】
先生の講評 うまい。
対照的な家族と犬をさらりと描写している。
特に傍線に観察と表現の細やかさが出ている。
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