エッセイ 書初め
春めいた日、公民館のロビーに、近くの小学校の児童が書いた書初めが展示してあった。
乾燥の為か少し波打って、「お正月」「初日の出」など、見慣れた文字が躍っている。
友人たちと足を止めて見入る。
「あっ、これシホちゃんじゃないの」
「あ、そうそう」と友人が相槌をうつ、近所の子供さんらしい。
息子が小学生の頃、冬休みの宿題に書初めというのが多かった。
ある時、もうすぐ学校が始まるというのに、まだできていなくて、急かせると、食卓で書くという。
墨をこぼされたら困るので、新聞紙を敷く。
墨をする息子に「ちゃんと座って」などと口を出す。
筆を見ると、前回洗っていなかったのか、穂先が固まっている。
やっと書き始めた。
背筋を伸ばし、筆を立てて持ち、恰好は様になっているのだが、さらさらと何も考えずに書いていく。
「そこはしっかり止める」、
「3本の横棒は同じぐらいに間を開けるの」
「しゅーとはらう」など、つい、口をはさむ。
何とかましなものが書けて、こちらの顔色をうかがっている。
まあいいかと見ているうちに、私も何か書きたくなった。
「お母さんにも書かせて」と言うと、何度も口やかましく言われたことから解放されると思ったのか、「どうぞ、どうぞ」と席をあけ、おやつをパクつく。
息子の書いた「春」という字は、私も小学生の時よく練習をした、しばらくぶりなのになかなかいい。
「お母さん上手でしょう」と自慢したら、「お母さんは、寺子屋に行ったんでしょう」と返してきた。
え、ただの冷やかし、それとも本気で思っていた、まさかねと打ち消した。
随分昔になった、あの頃の情景を思い出した。
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