ウクレレとSwing(スヰング)音盤

No Frills (2006) / Lyle Ritz

ジャズ・ウクレレの名手Lyle Ritzの2006年作。Jim BeloffのFlea Market Musicからのリリース。

まずタイトルの意味するところだが、「実質本位の,余分なサービスは提供しない」といった意味があり、ジャケット写真にある”如何にも良いサービスは期待できそうもない”レトロなモーテルの写真と、アルバムの内容が自身の多重録音によるウクレレとベースだけによる超・シンプルな内容である謙遜の二つの意味をかけたのだろう。駄洒落好きのライル氏らしいタイトルだ。

ジャケット写真に写るライル氏の苗字と同じ名前のRitzモーテルだが、これはCG処理などによるものではなくNorth Hollywoodに実在した宿(現在は閉鎖)。North Hollywoodはスタジオが点在しミュージシャンも多く住む地域で、Ritzモーテルはアメリカンなヴィンテージ・モーテル看板マニアの間では少々知られた存在だったようだが、それはあくまで看板の意匠によるものであり宿自体は最低の星ひとつ評価を受け、クチコミは不名誉な書き込みで溢れかえらんばかりであった。そもそも北ハリウッド自体あまり治安が良い地域とはいえないが、文字通り素敵な旅のサービスが受けられるような宿ではなかったようだ。写真にも「AIR OND」と見えるが恐らくAIR CONDITIONEDの数文字が欠落したままになっていて、この宿のセールスポイントが「(少なくとも)空調はついている」、文字の欠落によってそれすら疑わしいレベルであることを示唆している。

2006年というとリリース時点で1930年生まれのライル氏は御年76歳だった計算になる。2000年頃にハワイを離れオレゴン州ポートランドに新居を構えたのち、マッキントッシュのコンピューターにGarage Bandというソフトウエアをインストール。コンピューターを介した自宅録音により本作を完成させた。立派なスタジオ機材もエンジニアもいなかったことを思えばそれもタイトルの「実質本位の,余分なサービスは提供しない」の意図にも繋がりそうだ。しかしウクレレ奏者としてはかのバーニー・ケッセルに見出されて1950年代にアルバムをジャズの大手Verveから二枚も出したジャズ・ウクレレの先駆者であり、ベース・プレーヤーとしては有名なレッキング・クルー(LAのスタジオ・ミュージシャン集団)の一員として数多のアメリカ音楽史に残る名盤に参加した伝説的存在だけに、素朴な出来ではあるが本人による「宅録」演奏だけでも充分傾聴に値する作品として成立している。

1.A Felicidade
2.Satin Doll
3.Lil' Darlin'
4.No Moon At All
5.Besame Mucho
6.The Girl From Ipanema
7.Beginner's Luck
8.Rainforest Waltz
9.Emily
10.Blue Monk
11.I'm Old Fashioned
12.Old In New Mexico

もうひとつこれは推測だが、ライル氏はハワイに移住していた90年代にオータサンのアルバムのほとんどをベーシトとして支えており、本作でのウクレレを中心としたミニマルな音楽制作は、オータサンとの交流から得た相互間の影響もあった事だろう。オータサンはこの少し前の時期からウクレレ一本での独奏によるアルバム制作に挑戦し成果を上げていたが、本作でライル氏が先行したベースとのデュオというフォーマットはオータサンものちに 「Stardust - 4 strings - (2011)」で取り入れている。トラック8はそのオータサンのオリジナル曲である。


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