ウクレレとSwing(スヰング)音盤

Ian Whitcomb's Red Hot Blue Heaven (1977)

イアン・ウイットコムはイギリス出身のアーチストで、もとはビートルズを筆頭に吹き荒れたブリティッシュ・インベイジョンの流れでビート・グループのボーカルとして世に出た人だが、1965年にビルボード・チャートで8位につけた最初のヒット "You Turn Me On" の後が続かず、ソロ・シンガーとしての再ブレイクを目指しウクレレを抱え元々好きだったノベルティソングを歌うスタイルに改め心機一転アメリカへ渡るも、似たスタイルをもっと極端にデフォルメした怪人・タイニー・ティムの大ブレイクに先を越される格好になり道を阻まれた。結局自身が再ブレイクすることは生涯無かったが、職人的ミュージシャンとして知られながら息の長い活動を続けたのち、ウクレレという楽器が再び市民権を得るにつれアメリカではウクレレの伝道師的な活動でも知られるようになった。日本でも2000年代になってから(やはりウクレレで戦前ソングを歌うスタイルの)歌姫ジャネット・クラインのバック・メンバーとして来日し、アコースティック・スイングの文脈から知名度を上げた。

イアン・ウイットコムの著書「Ukulele Heroes(洋書)」は欧米人の視点から見たウクレレ音楽とアーチストの歴史に、自身の自伝も交えた貴重な文献資料。再ブレイクを阻んだ"宿敵"タイニー・ティムとの確執と、その裏返しの共感についても赤裸々に告白している。

こちらはイアン・ウイットコムによるノベルティ・ソングと自身の楽曲を取り混ぜた楽譜集で、上記の著書と表裏一体のような一冊。自身の蒐集品であろうビンテージ楽譜の写真もふんだんに掲載。

本盤は1977年シアトルのFirst American Recordsからのリリースで、バックにCrystal Palace Of Hollywoodというオーケストラが伴奏を付け、自身のプロデュースにより本人のウクレレ&ティン・パン・アレー系ノベルティ趣味がほとばしる一枚。録音はハリウッドのパラマウント・レコーディング・スタジオ。後にCD化もされている。

A1 When The Bees Make Honey Down In Sunny Alabama    
A2 My Blue Heaven
A3 The All-American Girl
A4 Dream Train
A5 A Friend Of A Friend Of Mine
A6 Wurzel Fudge - The Village Idiot
A7 Masculine Women! Feminine Men

B1 Take Your Girlie To The Movies (If You Can't Make Love At Home)
B2 Long Lost Mamma (Daddy Misses You)
B3 Bimini Bay
B4 So Will I
B5 Under A Texas Moon
B6 Wurzel Fudge In London Town
B7 My Girl's Pussy
B8 The Farmyard Cabaret

編曲:
 Frank E. Barry (tracks: A3), Ian Whitcomb (tracks: A2), J. Bodewalte Lampe (tracks: B3), Louis Katzman (tracks: B2), Robin Frost (tracks: A4, A6, A7, B8), Victor E. Sciacca (tracks: B5), William Schulz (tracks: A1, B1), Bill Masonheimer (tracks: A2)

演奏:
Ukulele, Banjo, Tiple, Synthesizer, Celesta, Accordion – Ian Whitcomb
バッキング・ボーカル – Jon Joyce (tracks: A4, B5)
Cello – Jackie Lustgarten
Clarinet – Jim Kanter
Double Bass – Fred Seykora
Drums – Ken Park
Flute – Georgia Alwan
Piano – Ian Whitcomb (tracks: A2, A5, A6, B2, B4 to B8), Varda Ullman
Trombone – Mike Vlatkovich
Trumpet – Malcolm McNab
Tuba – Tommy Johnson
Viola – Barbara Thomason
Violin – Marcy Dicterow, Shari Zippert

個人的にこの人の奏でる音楽はビートルズ後期にポール・マッカートニーが時折垣間見せたノスタルジー(ホワイトアルバムの「ハニー・パイ」とか)のセンスと近いものを感じる事があり、この世代の英国人が共有していた古き良き大英帝国の時代、みたいな日本人には解らぬ感覚があるのやもしれぬ。本人はコロナ禍が世界をパニックのように襲っていた2020年春、カリフォルニアのパサデナでひっそりと亡くなった。78歳だった。

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