ウクレレとSwing(スヰング)音盤

Shakin' The Blues Away (1970's) / Cliff Edwards "Ukulele Ike"

1970年代にカナダのTotem Recordsが組んだウクレレ・アイクことクリフ・エドワーズの戦前吹き込みコンピレーション。同レーベルはビング・クロスビー、ジーン・ケリー、アル・ジョルソンといった戦前スターの音源を1970年代から1980年代にかけて多く復刻したカナダのレコード会社。

Selections never before on record!という触れ込みなのだが、SP盤の復刻盤として当時は初のセレクションという意味だったのだろう。それというのも本盤の裏ジャケットに新聞記事のコピーが大きくレイアウトされているように、1971年にウクレレ・アイクが亡くなった際は、この人物が戦前のアメリカ芸能界で大活躍した往年の大スターとは周囲の誰にも気づかれることなく身寄りのない老人として福祉施設でひっそりと亡くなったという。恐らく本盤も当時はすっかり忘れられた存在であった彼の追悼盤として急遽組まれたLPだったろうと思われる。

1895年生まれというからロイ・スメックより5歳年上、やはりボードビルの大衆演芸出身で、映画という娯楽がトーキー化(無声映画の時代から、音声と同期する映画が登場)するにあたり映画界に進出した。戦後も『ピノキオ』『ダンボ』といったディズニーの名作アニメーション映画で声優として重要な役どころを演じ、有名な主題歌の『星に願いを』もウクレレ・アイクの歌であった。

彼のウクレレはやはりボードビル出身らしく張りの強いアメリカン・チューニング(現在一般的なハワイ式のウクレレのチューニングより一音高い)に加えてアタックの強いコード・ストラミングで、これは音響設備がまだ十分でなかった時代に劇場や屋外のステージでもしっかりと聴衆に音を届かせる為には必須のテクニックであり、加えて曲芸的な見た目も重要な要素であった。今日日本でいわゆる『ジャカソロ』と称されるコード・ソロを中心としたスタイルはこのアメリカ本土の大衆演芸が起源となっており、本来のハワイ式スタイルとは根本的に異なるウクレレ奏法だが、戦後逆にハワイに逆輸入されて多くの若いハワイ・ローカルの奏者がレパートリーに取り入れた。

ウクレレ・アイクの場合は勿論ウクレレも達者なのだがやはり歌手としての存在が大きく、間奏部分や興が乗ってくるとスキャットでジャズの管楽器ソロを真似る(ずっとのちにヴォカリーズと称される事になる)独特の歌唱法でも先駆者でもある。

何しろ戦前の大スターであるから多くの音源にはスヰング・スタイルの楽団がバックをつけており、ウクレレは必ずしもすべての吹き込み盤で聴こえる(=audible)とは限らない。しかし時折聴こえる冴えたストラミングや、こんにちyoutubeで見ることのできる初期トーキー映画での演奏を見るとやはり相当な腕前である。

A1 Singing In The Rain
A2 Shakin' The Blues Away
A3 Shine
A4 Alabamy Bound
A5 I Feel Like A Feather In The Breeze
A6 Everybody Step
A7 Indiana
A8 I Found A New Baby
A9 I'm Gonna Sit Right Down & Write Myself A Letter

B1 Yes Sir! That's My Baby
B2 Way Down Yonder In New Orleans
B3 There'll Be Some Changes Made
B4 The Blues My Sweetie Gives To Me
B5 Darktown Strutter's Ball
B6 My Baby Don't Mean Maybe
B7 Hang On To Me
B8 When You Wore A Tulip
B9 Singing In The Rain (Reprise)

収録曲はウクレレ・アイク代表曲の一つ『雨に唄えば』で幕を開け、B面ラストも幕を閉じる。1952年のハリウッド映画で有名だが、オリジナルは1929年のウクレレ・アイクによる吹き込み盤だ(MGM作品『ハリウッド・レヴィユー』で用いられた)。


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