27日(月)、東京大学農学部1号館8番教室にて<
第19回日本ウマ科学会学術集会シンポジウム>が開催された。
今回は<
ウマの躾(しつけ)を考える>をテーマに、6人の演者がそれぞれの考えを披露した。
まず、楠瀬良氏(「サラブレッドはゴール板を知っているか」などの著者、
JRA競走馬総合研究所)が、「動物としての価値と躾」という題で導入を行った。レース前の検量時において落ち着きのある馬ほど、着順は上位に来る(傾向がある)というグラフを示し、「人間との信頼関係が落ち着きにつながり、競走結果にもつながっているのではないか」と、躾がパフォーマンスにまで影響を与えることを示唆した。
基調講演は、NHK教育テレビ「
趣味悠々 犬と暮らしを楽しもう」にレギュラー出演している井本史夫氏(
井本動物病院院長、
ブログ)が、「犬の躾 人と犬の暮らしのために」と題して行った。躾は日々の生活の中で行うものであり、生後3週間~10週が特に大事な時期であること。ポイントとして<安心できる場所を与える><指示を明確にする><やさしく触れる>を挙げられた。馬も犬も基本は同じだと感じられる内容だった。
以下、各パートについて簡単にまとめる。
■「乗用馬のケース」
1、国産乗用種の育成期における躾-千葉祥一氏(
遠野市畜産振興公社)
10月22日に開催された<
第33回遠野市乗用馬市場>に向けて、2頭の馬を短期間で仕上げていく過程をビデオで紹介。<とにかく馬にふれて親和性を高める><ルールを教える><失敗した時はすぐに元へ戻って繰り返しやり直す>などのポイントを挙げられた。短期間で信頼関係を構築し、大勢の前で完璧に動きを披露できるところまでもっていく手法は、サラブレッド競り市場上場者にとっても大いに参考になりそうだ。
2、競走転用馬の躾-梅木康裕氏(
夢☆大地グリーンバレー)
競走馬からセラピー馬、ファミリーホースへ転用する際の調教法などを披露。セラピー馬は安全で高性能であるべき。そのためには、<指示に集中する馬をつくる>ことが目標となる。馬が人に興味をもつことから出発して<調=推察><教=学ぶ>していく考えを解説された。ここでも<とにかく馬にさわる>ことの重要性を強調されていた。
■「競走馬のケース」
1、幼駒期の躾-根本明彦氏(
ハッピーネモファーム)
競り市場に向けて、預かった馬を短期間で<より良い状態で、より高く売るため>の育成法について、特にメンタル面に関する考えを披露。
ピニョン氏や
持田氏の手法を、コンサイナーとしてどのように取り入れているかを解説された。躾に関して、<人は馬のリーダーでなければならない><答えをもって、馬に接する><その馬に関わる全ての人が同じ意識をもって接する>などのポイントを挙げられた。
※
発表内容とスライドは根本氏のブログで公開予定
2、育成期の躾-山野辺啓氏(
JRA日高育成牧場)
<馬に安全に騎乗するために>ということをテーマに、後期育成の騎乗馴致(ブレーキング)時のポイントを、タオルパッティングといった具体的手法や考え方などを織り交ぜて披露された。躾に関しては特に、<人間が馬のリーダーになること><馬が人といることで安心し、馬が自ら人を受け入れること=信頼関係>の重要性を説かれていた。
3、競走期の躾-
勢司和浩氏(JRA美浦トレセン調教師)
トレセンという強いストレスをできるだけ緩和し、いかに<躾の持続>をはかっていくか、についての考えを披露。基本は<人がリーダーシップをとる>ことであるが、競走に勝つことが目的であるため、<馬のリーダーシップ>を引き出すことも場合によっては必要と解説された。躾に関して<幼駒期から競走期以降まで、一貫した考えのもとに行う>必要性も説かれていた。
総合討論でのテーマにもあげられたが、躾の基本は<リーダーシップをとる>ということであろう。そして、そのために共通しているポイントには、<人が精神的に強くなる><毅然とした態度><感情的にならない><一貫した指示><ふれる、さわる、ほめる><叱るときはタイミングが重要(ボケとツッコミみたいな)>などが共通して挙げられていた。
また、根本氏、勢司氏が語っていたが、<その馬に関わる全ての人が一貫した考えのもとに接していくことが重要だが、現況は各飼養先ごとでバラバラな為、馬も戸惑っているのが現実>ということも真剣に考えていく必要がありそうだ。
なお、28日(火)は一般講演が計31演題行われる。
<参考>
・
日本ウマ科学会
by
馬市ドットコム