ある日カウンターにポンと本を置き、「投げ子」姫が言った。
「そちのようなうつけ者は、この本を読んで少しは学ぶがよい」
「は、はぁー」
と恭しく本を手に取りそのタイトルを見れば、「のぼうの城」とあった。
むむ、巷で話題になっているのは知っていたが、未だ未読でござった。
「投げ子」姫がさらに言う。
「そちのようなド老眼者には容易には読めんだろうから、死ぬまでに読了すればよい」
ははっ、ありがたき幸せにござる、姫。
とは申したものの、それからひと月経っても一ページも読まなんだ。
うつけなド老眼者でも、いろいろとやることも読むものもあり、ようやく読み始めたのはつい先日のこと。
だが読み始めるや風のごとし、ふた晩で上下巻を読了した。
姫、なかなか面白うござった。
元来それがし戦国話しが好きでござるが、近頃の時代小説作家にはなかなか馴染めぬゆえ、これまで躊躇しておった次第。
だが「のぼうの城」の著者「和田竜」の経歴を見て、第29回城戸賞の受賞者と知り俄然興味をもつに至った。
城戸賞・・・長らく忘れていたが、35年前この賞を目指して脚本を書いていた時期があった。
しかし昔から粗忽者ゆえ準備期間がまるで足りず、200詰めの原稿用紙で300枚もの映画脚本には程遠い120枚の作品に仕上がってしまい、その年の城戸賞は諦めた苦い経験がござった。
結局その年第3回の受賞者はふたり、『夏の栄光』の中岡京平と『オレンジロード急行』の大森一樹で、どちらも後に映画化された。
悶々として挫折したシナリオをひねくり回し、駄目元でシナリオ作家協会の通信教育のコンクールに応募したら入選した。
入選して賞金も手にしたが、ただそれだけで鳴かず飛ばずの負い目の三度笠、賞金の額もケタ違いだし、映像化なんて夢のまた夢。
それきりそれがしの夢は夜開く、じゃなくて、シナリオの夢は頓挫したのでござる。
で「のぼうの城」でござるが、時代小説オンチでも分かりやすいし、元々が映画脚本なので視覚化しやすい。
キャラも立っているし、あと味のいい読みごこちであった。
その旨「投げ子」姫に申し上げると、
「どうじゃ、ワシの言ったとおりであろう。ならば映画も観るがよい」
とおおせられたので、遅まきながら劇場に足を運んだ。
日比谷スカラ座、東宝のカードのポイントが貯まっていたので、お金を出さずにすんだのは幸いであった。
犬童一心と樋口真嗣のダブル監督だったが、樋口ちゃんは特撮パートいっぱいだからやりがいがあろう。
「大魔神」以来久々の濁流渦巻く時代劇スペクタクル ( なんてことはないか・・・ ) 、「隠し砦の三悪人」のダメダメを挽回して頂きたいとの願いで観た。
まあまあ、でござる。
だがしかし、主演の「野村萬斎」なしに成り立たない映画なのはわかるが、どこから見たって、でく「のぼう様」って感じじゃないのは残念。
原作を読んでなくても、何がでく「のぼう様」? って首をかしげちゃうほど芸達者。
それに、2時間で観せようとみなオーバーアクション気味で、やや先走り過ぎた感がある。
「佐藤浩市」ってあまり好いてはおらなんだが、今回はまあ許せる。
「ぐっさん」は相変わらず器用だし、「前田吟」や「平泉成」のベテラン勢もなかなかいい。
なかでも「芦田愛菜」ちゃんが泣かせますな。
もひとつ、何も恨みはなかれども、エンディング主題歌の「エレファントカシマシ」は興醒めでござった。
総評、無難にまとめ上げて 可もなく不可もなしといったところで、原作の勝利。
「投げ子」姫に代わって申そう。
「読んでから観るか、観てから読むか」 ( by 角川春樹 ) どちらにしても損はしない。
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