お好み夜話-Ver2

日本酒宿でジャン・レノと言われた夜

営業終了して、鉄板掃除と生ビール掃除を終えたとき、どこかで飲んできた帰りの「ユイたんちち」がニヤニヤして現れた。

飲み足りないらしく「どこか行こうよー」と、子供みたいなことをいう。

「ちち」は明日休みだということで、野放し状態で始末が悪い。

運悪くこちらも明日は休みで、深刻な申告のことを一刻でも忘れたい状況だったから、「ちち」の誘いにのってみた。

そうと決まれば話は早く、行ってみたいお店がご近所にあったので、ふたりでいそいそと出かけた。


そのお店の情報を持ってきたのは調子コキのヤカラだったから、まったくあやふやで不確かなものだったため、その男と行く前に一度確認しておくのもいいと思ったのだ。

「ちち」はかつてこのブログ上で「おちょこくん」と呼ばれていたように、日本酒はそこそこ飲む男だし、今宵の相手にはちょうどよかったのだ。


店から旧道を歩いて約3分、ビルの2階にそのお店「日本酒宿 七色」はある。

夜中の2時まで営業してくれているうれしいお店で、店名のとおり日本酒がウリのお店だ。

店内は照明をしぼって、グッと落ち着いた大人の雰囲気、カウンターに8席とテーブル席が1つだけの、こじんまりして静かにお酒が味わえる佇まい。

ショップカードに「日本酒文化の未来を考える」と書いてあるように、直球勝負の日本酒専門店だ。

その潔さは、飲み物メニューでも一目瞭然。

日本各地のよりすぐった地酒や活性清酒、日本酒ベースの梅酒やリキュールなどなど、焼酎メニューはなく、ドラフトコックがあってもそこから出るのは本日の地ビールというぐらいに徹底している。

常時40~50種類はあるという日本酒は、カウンターの上の飾り棚のようになった冷蔵庫の中に入り、ジャケ飲みできるという塩梅。


席についてすぐ「ちち」と顔を見合わせ、

「あの男はつれてきたくないよねぇ」 「オコチャマはきてほしくないよなぁ」

とうなずいてしまうほど、ファーストインプレッションがいいお店であった。


閑話休題、こちとら喉がカラッカラでい、まずはお薦めを頂きませう。

お酒はワイングラスで提供される半合が500円均一で、徳利と片口で提供される一合が950円均一と良心的な価格。

ワイングラスの似合うナイスミドルはそれで、クイクイとやりながらマスターとママさん ? にお話を伺う。

なんでも2010年にオープンされたそうで、今まで気づかなかったのは迂闊だった。

知名度のある蔵の酒より、小さくても旨い酒を見いだすのが楽しみだと仰るのは、我が意を得たりと共感する。

チェーン店ばかりで味気ない街になってきた夜の千住に、たぶん個人店だと思うが、こういうお店がガンバってほしいと切に願う。


いい雰囲気の中で時間の経つのは早く、カウンターの向こうに座っていた男性が帰り支度、支払いを終えてこちらに笑顔を向け、「ジャン・レノに似てるって言われませんか ? 」と声をかけられた。

おおっ、わかる人にはわかるもんですな。

調子こいて「次にお会いしたときはレオンと呼んでください」などとかえしてしまった。

すっかり気分が良くなって、あっという間に閉店間近。

また来ることを心に誓い、店を出た。


お酒もおつまみも美味しく、本当に久々にいい店に出会えた。

しかし、あの調子コキのヤカラには向いていないと思う。

彼がもう少しオトナになって、酸いも甘いもわかるようになったら、店の扉を開いてもいいかもしれん。

そうジャン・レノくそおやぢは思うのである。

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