お好み夜話-Ver2

芋掘りの朝、芋飲みの夜

「トンネルを抜けるとそこは雪国だった」の名文のごとく、上信越道の坂城からあんずの里へ抜けるトンネルを出るとそこは水墨画のような冬景色だった。

浅間山は雲に覆われて見えず、気温はマイナスに限りなく近い。

途中、松井田妙義と碓氷軽井沢の間が事故で交通規制されていて、ルートを変更するかと思案したが、進むにつれ規制は解除され、路面が凍結してスリップ事故をおこした現場を何ごともなく通り過ぎた。

更埴インターでおりて国道18号線を千曲川の方へ、10時前には「青木さん」のお宅へ到着した。

何のおかまいもなくと言ったのに、漬け物や鯉こくなどでもてなしを受け、作業着に着替えて畑へ総勢9人で繰り出した。


「青木さん」から長芋掘りのレクチャーを受け、さっそくそれぞれの穴を掘りはじめる。

顔合わせてしばらくはぐずっていた「エレンちゃん」も、自分の身長と同じくらいの長さのスコップを持って楽しそうに土を掘る。

時おり淡い粉雪が舞い、穴と雪の女王なんちゃって。

「ユイたん」も恥じらいながらスコップをふるう。

信州人を自称するスコットランド人もせっせと穴掘り、長芋の先っぽを見つけて慎重に掘り進む。

今年で3回目の「ホリちゃん」はもう慣れたもので、次々と掘りあげてゆく。

でも今年の土は堅くて、芋は土中で曲がり、なかなか手強い。

汗をかき、かき、みんな夢中で、それでも楽しい芋掘りはお昼過ぎまで続いた。


畑で食べるリンゴの味は格別。

お昼ご飯に蕎麦屋を予約しておいたので、収穫した長芋を軽トラに積み込み、土を落として畑を後にした。

本場のおしぼり蕎麦を食べ、強くなってきた雪の中をばあさんの墓参りをし、いつもこちらに来た時には寄る酒屋で素敵なお酒を買い、「ちち」と「ユイたん」とはここで別れ、「ジョニー」の車と2台で長野道を松本へ向かった。


聖高原のあたりは吹雪、霧も出て視界が悪く速度を抑えて進むが、何本かトンネルを抜けて安曇野へ出ると、なんとびっくりぜんぜん雪の気配もない。

松本インターでおり野麦街道をお城に向かって進み、北松本とお城の中間あたりに「ジョニー」の新居が聳える。

いや、大げさでなくまさに聳えるほどの豪邸

これを3分で決断して購入しちまったんだから、剛腹なスコットランド人だなんちゃってウィリアム王子だ

駐車スペースは6台分、ホームエレベーター付きの鉄筋コンクリート3階建ての3階の和室が今夜の我らの寝ぐら。

障子を開けると松本城の二の丸側が見え、雪をかぶった山々が見える絶好のロケーション。

これでもう松本へお出かけの際は、宿の心配をしなくてすむ。

いやぁ、持つべきものは剛腹なスコットランド人だなんちゃってウィリアム王子だ


「ジョニー」邸から徒歩7、8分のところにある日帰り温泉に車で行きさっぱりしてから、豪邸のマダム「ヒカル」が予約してくれた居酒屋へ繰り出す。

この夜の松本の気温は1度、鮮烈な寒さで時おり淡雪が舞うが凛として気持ちがいい。

もうすっかり打ち解けて、「ホリちゃん」を大きなぬいぐるみのようにして遊ぶ「エレンちゃん」が可愛い。

でも芋掘りからずっとテンションが上がりっ放しで、ご飯を食べたらなんだか熱が出てしまったので、早めに切り上げることにした。

小僧も芋掘りで腰を痛め、いつもの食欲がないので、かあちゃんとともに「ジョニー」邸へ引き上げた。


そしてここからがほんとうの松本の大人の夜、生ビール3杯で居酒屋を後にした経験がないオヤジと「ホリちゃん」は、クリスマスのイルミネーションで彩りされたもう完全に把握している道順を歩き、お目当ての「彗星倶楽部」のドアを押した。

ストーブでお湯がしゅんしゅん沸くほど店内は暖かく、まだ誰もいないカウンターに陣取り冷えたをエビスかけつけ2杯。

ママさんと会話をするうちに「ああ、お芋の方だぁ」と彼女も思い出してくれて、ボトル棚からおすすめの「芋」を取り出してカウンターに並べてくれる。

ママは自ら鹿児島の酒屋へ出向き「芋」をチョイスしてくるのだ。

そしてワシらの好みと同じく、昔っぽい、芋くさい「芋」を入手してすすめてくれるのだ。

そうさなぁ、歳のころは30代半ば、細身で今風にニット帽なんぞかぶり、飾らないけれど、そのへんの肝っ玉が据わっていないチンピラがビビってしまうようなリッパな入れ墨がその二の腕にある。

それはタトゥーなんてレベルではなく入れ墨そのもので、はたして二の腕だけなのかどうかは定かではないが、それに至るまでの女の人生を想わせて素敵だ。

「ゴドーを待ちながら」じゃなくて、剛腹なスコットランド人なんちゃってウィリアム王子を待ちながらお湯割りを飲むことしばし、「ジョニー」も合流してあらためて乾杯

松本には外国人が多く、「ジョニー」のような英語教師もたくさんいて、この店にもそんな外国人が常連でいるようだ。

いつのまにかふたりの外国人がテーブルであの赤星(中瓶)をがんがんラッパ飲みして、声高に会話をし、ここはHUBかというくらいに盛り上がっていた。

「ジョニー」先生は酒を飲まないがふたりとは顔見知りらしく、何ごとかやりとりしていたが、そのうちのひとりが「ホリちゃん」のかぶっている審判帽みたいな帽子を指差し「ポパイ」と言った。

その場の誰もがそれだけでは漫画のポパイと思って??だったが、酒が入ると神のごとく鋭いオヤジは達者な日本語で、

「フン、ジーン・ハックマンかよ。フレンチコネクションとは古い映画を引っ張りだしやがったな。あんたはウイリアム・フリードキンか、エクソシストか」

と言ってやると、ニヤッと笑って英語でまくしたてた。

このガイジンが何を言っているか完璧にわかるけど、こちとら白人に媚びへつらうようなイヤラシイ日本人じゃないので、奴が言うことはいっさい無視し、

「ところであんたたち赤星をラッパ飲みしているが、ケン・タカクラを知っているのか」

と言うと、知らないなどとたわけたことを言いさらに早口で英語をまくしたてた。

ふふん、なるほど。

こやつは日本語がわかるのにあえて知らん顔して英語を通して、こちらがどう出るか試してやがるのだ。

「ジョニー」ともうひとりのガイジンがニヤニヤしながら成り行きを見ており、カヤの外の「ホリちゃん」はこのスキにお湯割りをおかわりした。

そしてさらに、

「こう見えてもオレはフランス人だが、あんたはフランソワ・トリフォーとかジャン・リック・ゴダールを知らないのか? 勝手にしやがれ、大人はわかってくれないんだぞ」

なんて調子こいた。

アツい酔っ払いの夜は更け、店を出ると体感温度は氷点下。

一気に酔いが覚めそうな鮮烈な夜気の中を「ジョニー」邸へ戻り、震えながら歯を磨いて布団に潜り込むや爆睡。

部屋に中は酔っ払い達の芋くさい寝息が充満したのは言うまでもない。


翌朝、窓の外は眩しいモノトーンの世界。

少なくとも5センチは雪が積もっていた。

小僧と「ホリちゃん」はまだ眠そうなので、ふたりを残してかあちゃんとお散歩に出た。

いつもとは違うルートで松本城に入り雪景色を楽しみ、ぐるっと一周して太鼓門やもう飾ってある門松を眺め、縄手通りにあるパン屋さんでお茶して、雑貨屋さんで「ジョニー」邸の殺風景な壁に飾れる絵を買い、2時間近く歩き回った。



「ジョニー」邸へ戻ると、今度は「ジョニー」が旧開智小学校を見に行こうとみんなを誘い、ふたたびお城を通り抜け史跡の旧開智小学校へ入場券を買って入った。

明治時代、松本で熱心な教育の芽が出たことを物語る資料展示を見て回り、当時の教室で代わりばんこに学校ごっこで童心にかえった。




諏訪湖マラソン以来の「ジョニー」先生のエッチな英会話講座。

スモールテス ( 貧乳 ) のポーズ、嗚呼、子供のいる前で😜


楽しかった松本の旅もそろそろおひらき、泣きそうな「エレンちゃん」の顔を見るのも忍びなく、車に乗り込んでGO👋

帰りぎわに諏訪湖へ立ち寄り、下社と上社に詣でた。

下社では夕暮れ時で空気が切れるように冷たく人気もなく、上社に周るとなんと一面の雪。

諏訪湖をたった半周するぐらいでこの景観の変化、まさにでぃすかばりーじゃぱんですな。

イロイロなことを真剣に、お賽銭を入れて正式な礼拝をしたのだが ( 具体的なお願いの内容は直接じゃないと言えない ) 、来年は楽しみだ。

さあ帰るぜ運転手くん、戻ったら生ビールが待ってるぜ👍

高速をぶっ飛ばす「ホリちゃん」、安心しきって次々と落ちる同乗者3名。

予想に反して渋滞にもあわず、8時頃には千住に到着して「喜和」さんで駆けつけ3杯サ。

ありがとう「ジョニー」先生、また行くよ😄


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