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◇ サン=テグジュペリ「星の王子さま」新訳読み比べ(その1)

2009年01月13日 | ◇読んだ本の感想。
(現在手元には内藤濯訳1冊しかない。つまりこの状態で新訳の内容を引用することは出来ない。
文章中、引用のように見えることがあるとしても「総じてこんな感じの訳だった」
あるいは「自分のとらえ方ではこんな感じだった」というもので、
内藤訳を除いて、引用ではありません)




昔々、最初に「星の王子さま」を読んだ時は、正直「……ナニコレ?」でしたよ。
不思議な、というより疑問に思わざるを得ない話だった。
ウワバミからどうして飛行機事故に繋がって、王子さまとの出会いになるのか……
小学生に理解出来る文脈ではなかった。面白くも何ともなかった。
だいたい挿絵が下手で可愛くないということからして疑問。
挿絵ってのは可愛くて上手な絵であるべきだ。というのがコドモの常識でありました。

いや、理解出来る面白さもあったんだけどね。
星めぐりの部分は普通に面白かった。大人たちの戯画は、子供向けの話の定番だから。
全体的に「ああ、こういう話なんだ」ということを把握したのは中学生になってから。


2005年に版権が切れたので、当時雨後の筍のように新訳が出た。
少々出過ぎではないかと思ったほどに。
その時に「いつか読み比べてみようかな」と思い、お気楽に課題図書にリストアップし、
今回読んでみたが、いや、無駄といえば無駄な試みでありました。

だいたい図書館で2時間半、7冊の本をざく読みしたくらいでは、読み比べなんてレベルには
届きはしないのだ。読み比べというくらいなら精読しないとね。反省した。
それに、ざくざく読んだくらいで違いを感じるほど、それぞれの差異は大きいものではない。
わたしは一応、内藤濯訳は数回(多分5,6回)は読んでいるけど、
それほど「星の王子さま」に愛着を持っているわけではないし……

でもまあ読んだから一応ね。


わたしは池澤訳を目当てに今回読んだので、まずそこから。
だ・である調を採用したこともあり、話がすっきりしたとは思った。
話はすっきりしたが、内藤訳にあった詩情はだいぶ減じた。
エクスクラメーションマークの多用が気に入らなかった。
キツネの台詞で「飼い馴らしてくれ!」……は、日本語としては無いよなあ、と思った。

倉橋訳。最初のあたりはテンポがいい。読み進むにつれて凡庸になる印象だが。
「坊や」というのに少々違和感。

川上・廿楽訳。「プチ・プランス」が乗り越えられないわ。たとえ原典でどれだけ
固有名詞化して扱われているとしても、タイトルだけならまだしも
本文で「プチ・プランスは……」とかやられると。
フランス語で馴染みが薄いからって、無理がないか。
「小公女」で「リトル・プリンセスは……」とか「小公子」で「リトル・ロードが……」と
本文にあったら、やっぱり変じゃないか。

三野訳。目線が大人の感じ。キツネが「手なずけてくれ!」というのがねえ。

山崎訳。内藤訳に似た、少し古めかしい雰囲気を感じた。

小島訳。いまいち印象が良くない。どこがどう、というのは忘れたが。

河野訳。印象が薄い。もう7冊目だし。


……2時間半だとせいぜいこの程度の感想です。


さらにこんな本も読んだ。時間の関係で前半部だけだったが。





わたしはフランス語は全然わからないので(というと他の言語がわかるように聞こえるが……)
こういう本を読んで「そうそう!」とは思える知識はない。
結構激越な調子で書かれている本であるゆえにか、この本自体にも誤訳に匹敵するような
強引な解釈が含まれているのではないかという気もする。
……まあ、この人の怒りまくる姿勢自体には非常に親近感を覚えるんだけどさあ。
しかしその怒りに引きずられて、知識のない者がなんの根拠もなく
この本の全てを信じ込んでしまうようだと、それはそれで困る。

というわけで、……ワタシがブログでケチョンケチョンにやっつけている本に対する評価も、
お読みになった方の自己責任でお願いします。


※※※※※※※※※※※※


結局この3時間半で一番明らかになったことは何かというと。

それぞれの新訳ではなくて、定番である内藤訳の姿だろうなあ。
他と比較することで初めて浮き彫りになる。今までは比較対象ナシなわけだから。


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内藤訳の最大の美点はその詩情であるように思う。
リズムよく、歌うように訳されたセンテンス。
です・ます調で語りかけている。それは「物語」の系譜。
読み物ではなく、声を使って伝えていくこと。一般的には読み聞かせと呼ばれるが。
が、物語ることと読み聞かせには、実は微妙で大きな差がある。
つまり、語り物と読み物の差。これ、本来はジャンルとして別物ですよ。

原典はそもそも読み物として書かれたものだろうけど、内藤はそれを語り物とした。
この点を評価していいと思う。違うものになってしまったのだから、
“不実な美女”になってしまったわけだけれどもね。
タイトルを「星の王子さま」にしたのも……
功罪あるけど、「星の王子さま」じゃなければここまで有名になったかどうか疑問だから、
功の方を多しとしようか。
でも、小学生のわたしが「王子さまってことはもちろん王さまもいるんだろう」と思い、
最初の小惑星上の“王さま”と星の王子さまの関係に悩んだという罪は負ってもらわなければ。

あとはやはり誤訳が……。
読んで「意味が通じないぞ」と思った部分がちらほら。
献辞のしょっぱなからして変な日本語でしょ。

それから、パイロットと王子さまとキツネ、あと蛇も、台詞から理解出来る相互の関係性に
混乱を感じるのはどこへ持って行けばいい話かね?訳なのか?それとも原典なのか?

(その2へ続く)



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