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本・映画・美術・仙台89ers・フィギュアスケートについての四方山話。

◇ 愛川晶「道具屋殺人事件」

2021年11月18日 | ◇読んだ本の感想。
愛川晶は最近――数か月前に初めて読んだ。
1冊目の「七週間の闇」は面白く、その後出版順に4、5冊読み続けたのだが、
3冊目以降はだいぶ落ちる。読むのに苦痛を覚えるくらい。

止めようかなと思ったのだが、止める前にワンチャンと思い、
作風を変えたと思われる落語にまつわるミステリを読んでみた。
コッテリした作風が魅力だった1冊目2冊目だけど、このコッテリ具合を何冊も
続けるのは正直大変。
創元推理でこのタイトルなら、多分軽めの短編だろうし、
これで面白くなければもう読まなくて良い。

そしたらこれはね。面白かったですよ。
期待していたより少し重めの味わいだったが……深刻というわけではなくて、
少し密度が濃い。もう少し軽めでも良かった気がする。

ただ、ちょっと設定が疑問なんだよね。

落語家の奥さん・亮子が視点人物。旦那の福の助は真打昇進も見えて来た二ツ目。
旦那の師匠・馬春が脳梗塞で倒れ、今は房総半島のリゾートマンションで療養中。
偏屈だが面倒見はよく、脳梗塞の後遺症で筆談でしか喋れないが、
安楽椅子探偵を買って出る。明るい奥さんと一緒に。60代くらいか。
というのが基本設定。

他に現在の師匠・福遊とその一番弟子の小福遊とその奥さんの朋代ねえさん。
寄席のお席亭の勝子。
あとはだいたい同業者が被害者になったり、犯人になったりしている。

探偵役が分散しているんだよなー。
何しろ倒れた馬春師匠は、半身不随の状態で房総半島で療養しているわけ。
東京に住んでる落語家とその妻が、事件が起こる度にいちいち房総半島まで電車で出向く。

それに無理があるから、馬春師匠の意見を聞かずに亮子や福の助が自発的に動く、
という話もあって。
そうすると馬春師匠の重要性が薄れるわけで……

なんで馬春の東京の自宅で療養じゃいけなかったかね?
寄席からほど遠からぬところにおうちがあって、関係者が立ち寄る方が自然ですよ。

しかも馬春師匠は筆談だから、話としてのテンポが悪い。
そもそも今の師匠と元の師匠と、師匠が2人いる必要はなかったと思うんだよ。
半身不随の、筆談の、房総半島住み。そういう人を探偵役にする必要があったか?

もう一つ疑問なのは、亮子に対して「姐さん」的な人が3人もいるということ。
特に馬春師匠の奥さんとお席亭の年恰好が似ており、性格もそこまで特色がない。
母親的な存在が2人は要らなかったと。
朋代姉さんは前二者よりは年代的にも若いし、差別化は出来てるけど、
そのわりに出番が少ない。姐御役を3人にしなくても良かったんや。

正直、この人はあんまりキャラクターを魅力的に書けない人だから、
亮子にしても福の助にしても、主人公としてはだいぶ弱い。
役割分担が出来ていない10人弱の主要登場人物は、手に余るのではないかと
言わざるを得ない。もう少し整理すべきだったのでは。


落語要素は良かったです。ここらへんがコッテリ志向の作家の本領発揮。
ちょっと過ぎるくらい書き込んでいる。
わたしは寄席に2回ほど行ったことがあり、数十年前は何冊かの噺の本を
愛読していた程度の馴染みはあるが、知らないことがいっぱい書いてあって
なかなか勉強になった。作家本人も落語が好きで詳しいんだろう。

取り上げた噺も全部が全部メジャーではなく。
わたしが知らない噺も多々あった。馴染みがない噺はちょっととまどったが、
知らないのも知りたい。が、あまり親切に説明してくれないことがあって、
そういう時はちょっと苦しむ。

でも面白かったので、このシリーズは今後も読みたいと思う。
もう少し「ミステリ連作短編」の体裁が整うと読みやすくなるんだろうけど。
1冊で短編が4つくらいがちょうどいい。今回は3作でした。書き込み多いからね。
でもコッテリがこの人の個性だろうからな。
あまりあっさりを目指すのも違うんだろうね。


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