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本・映画・美術・仙台89ers・フィギュアスケートについての四方山話。

◇ 水村美苗「續明暗」

2022年12月21日 | ◇読んだ本の感想。
水村美苗をつぶそうと思ってこないだ「私小説」を読んで、
予想以上に面白かったので、今度はこれ。
読むにあたっては漱石の「明暗」を読みなおした。

でもまあやっぱり、続編といわれれば減点法で読むよね。
わたしは全体的にそう読みがちだけど。
ただ減点法で読んでも、使用単語とか文体にはほとんど文句はなくて――
そこはすごいと思った。この点はもっとすごいと思うべきなのかもしれない。

が、総体的にストーリーとしてはどうだろうか……とは思う。
どう始末をつけるつもりなのか、というのがもちろん最大の興味だが、
そこに十全に応えられたかというと。

結末は、わかる。こういう風になるのは納得出来る。
が、ちょっと流れがあまりに露骨だったんじゃないかと。
誇張していうならば、ドタバタに流れ過ぎているんじゃないか。
漱石はここまであからさまには書かなかったんじゃないかなあ。

漱石ならもう少し津田にもいいわけを用意していただろうし。
「岡本」が画面外でちゃきちゃき動きすぎる。
この辺、水村美苗も伏線をうまく回収している快感はあっただろうが、
その快感を抑えてもう少しおぼめかして書いた方が漱石らしかった。

漱石も同じように書いた気はするけど、
わたしは津田はもっと言い訳は出来た気がする。
秀子は(お延も小林も)不倫行為を突き止めたと思っているのであって、
そこは言い訳をしておくべきではないか。
不倫というより津田の未練であって、しかも清子の方は関与してない。
清子のためにも、現実的には「不倫ではなかった」と言っておかないと。

未練も不倫も津田にとっては同程度に不名誉ではあったろうが、
社会的には相当違うもんね。岡本にも藤井にも吉川にも、まだ言い訳がたつ。
まあそれを言っては単にメロドラマになってしまうけれども。
言わないのも不自然なんだよな。ここはもう一つ工夫が欲しかったところ。


――と、いろいろ言ったが、総じていえばかなりのハイレベルの作品でした。
文豪の未完の遺作を書き継ぐなんて、ほんと無謀な挑戦だと思うわ。
それにがっぷり四つに組んで負けなかった。パスティ―シュでは快挙。

上に書いたように、最後のドタバタはちょっといただけないが、
そこまでのしんねりむっつりは面白く読んだ。文学作品でした。

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