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本・映画・美術・仙台89ers・フィギュアスケートについての四方山話。

◇ 「西遊記 上下  中国古典文学大系 31 32 」(平凡社)

2009年01月29日 | ◇読んだ本の感想。

西遊記を読んだ万人が思ったであろうことをわたしも言う。

――三蔵ってば何たるヘタレ!
それにくらべて孫悟空の何とかっこいいことよ。


成立があやふやな話なので、多分グダグダな話なのだろうと思ったら、
読みやすかったので意外。でもこれはある程度ダイジェストした物の翻訳らしいんだけどね。
この程度で充分です。岩波の全10巻とか読むのはイヤ……。
(こないだの「アラビアン・ナイト」で懲りてる。実は今、「ローマ帝国衰亡史」を
読んでいて、これにも相当苦労している。数ヶ月に1冊くらいしか読む気にならん)
この本はさくさく話が進むし、わりあい整合性もとれている。自然形成の話にしては。
しかしこのダイジェスト版を自然形成と言っていいのかどうか。
ま、いいか、この辺の細かいことは抜きにしよう。

1回から100回の小話。だいたい想像出来ると思うが、――みんなワンパターンで、
三蔵がさらわれて孫悟空が助けるという、そればっかり。
これは元々どういった形で成立したものだろうなあ。章の結びが「次回の講釈で」とか
書いてあるんだから、やはり語り物だろうか。客は毎回同じで飽きなかっただろうか。
でも水戸黄門だって、延々と同じパターンを繰り返しているわけだからな。
ワンパターンの幸福もありますよ。


しかしなぜ三蔵がこんなにヘタレなのか。
日本の映像化作品で定番になった三蔵役=女優も、中国では非常に奇異に映るそうだが、
でもこの三蔵では女優にしたくなるのも無理はない。この話の中では、三蔵は、
わがままで、すぐ機嫌を損ねて、気に入らないとぶつぶつ言い、自分がピンチになると
手のひらを返して孫悟空に頼るという……自覚なく自己中というところが女っぽい。
非常に真面目で悪意はない、というところも女っぽい。まあこんな感じの奴は男でもいるけど。
体格的には偉丈夫らしく書かれているが、言動を見ている限りとても女々しい。
……「雄々しい」がいい意味で「女々しい」が悪い意味であることに釈然とはしないけれども
女々しい奴なんだ、実に。

なんであんなに猪八戒をひいきするのか。
出来の悪い子ほど可愛いのは弟子の場合でもそうなのか。
それにしても悟空は不憫だ。相手が妖怪だと慧眼で見破って、さっさと敵をやっつけるのに
三蔵には「無益な殺生を」と怒られ、あげくには破門されたり。
でなければ、ここで待ってろという悟空の言いつけに背き、勝手にぞろぞろ移動して
捕まって悟空に迷惑をかける。わたしだったらこんな師匠はイヤだ。ほとほと足手まといだよ。
「西遊記」の要諦はとにかく悟空のスーパースターぶりで、そのために他をヘタレに
しなければならないということはあるだろうが、もう少し「おお、さすが三蔵」と言える
部分を盛り込んで欲しいぞ。

それに、沙悟浄が不憫で……。
まがりなりにもトリオなのに、あれだけ空気って(T_T)。
一章のうち悟浄の名前が一度も出てこないということもよくある気がする。
普通はバランス上、もうちょっと気に掛けるよね。
キャラが立ってないからなあ。実写ドラマとか中島敦の「悟浄出世」とかからすると、
もう少しインテリジェンス漂うキャラだと思っていたのだが……
一歩引いて冷静な立ち位置、というのは一応あるけど、それだけでは弱いさー。

そのうちいいシーンもあるだろう、もう少し見せ場があるだろう……
とずっと読み進んできても、ほんと何にもない。沙悟浄かわいそう(T_T)。
1つくらい主役のエピソードを作ってあげて欲しかった。
それともダイジェストじゃないバージョンなら、もう少し何かあるのかなあ。


最後の大団円ぶりは、実におおらかでいいねー。大陸風ということなのか?
めでたさ大盤振る舞い。
三蔵と悟空は仏になったしね。仏になってもそれ以前と言動があまり変わらないのが可笑しいが。
しかし「西遊記」、仏教・道教が入れ替わり立ち替わり、ごちゃごちゃですな。
仏たちにしても神々にしても、実にのんびりしていていいなあ。人間くさいし。

……あれっ?道教で玉帝と老子の関係はどうなっているんだ?
宗教としての道教では最高神は玉帝だと思ったが。老子はそうすると……
イスラム教におけるマホメットみたいなものなのか?でも老子が説いたのは宗教じゃなくて、
哲学だよね?あれー。まあいいけど。「西遊記」の中では何でもアリだし。

そういえば、四海竜王が悟空にヘイコラしているシーンが何箇所もあって、
とってもカワイソウでした。昔、田中芳樹の「創竜伝」を読んでいたので、
悟空にいいように使われる老人の竜王の姿を読んでいると笑える。
斉天大聖サマは相当にエラかったんですね。



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2 コメント

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西遊記 (野上 好昭)
2010-03-07 21:10:33
私も35年前に読みました。詩の格調の高さと内容の面白さに惹かれました。きっかけはFMラジオ放送での大田緑さんの朗読を聞いてでした。書店を駆け巡り手に入れたことを思い出します。
返信する
いらっしゃいませ。 (umeko)
2010-03-09 00:44:33
元々の形式から考えれば、朗読というのは相応しい出会いだったかもしれませんね。
目で読むものと耳で聞くものの間には、意外に深い谷がある気がします。

しかし三蔵法師ってやっぱり……。
返信する

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