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◇ 富士川義之「ある唯美主義者の肖像 ウォルター・ペイターの世界」

2010年02月07日 | ◇読んだ本の感想。

あまり書くこともないし、内容が相当に高踏的ではあるので、ヨンデモ本とも言えないのだが、
自分のメモ代わりに少々。


ウォルター・ペイター。というのは、ヴィクトリア朝辺りの文学研究家らしいのだが……
はっきり言って全く知らん。わたしの守備範囲にはない。正直言えば文学論にはほぼ興味もない。

それでも読んでいて楽しいというのは、著者の類稀なる文章の力なのか?



普通なんですけどね。特にどこが際立ったという文章ではない。
が、全然知らないこと、興味もないことを読まされて(?)いるわりには、なんか読んでいて幸せ。
決してわたしも全てを理解出来ているわけではないが、難しいことを語っているわりにわかりやすい。
中野好之さんあたりに、ちとその辺を学んで欲しい気がする……

簡明な文章はいいねえ。
簡明な文章って、書くのが難しいと思うよ。どーでもいいことを書くのにだって、
ともすれば書きグセというものが出て来てしまうというのに、
文学を論じるなんてめんどくさいことをこんなに素直に書けるとは。
しかもどうしても使わざるを得ない学術用語を使いながら。
やっぱり好きだ。富士川義之。「好きな学者」というカテゴリに入れるには、
書いた本が総じて難しすぎるんだけれども。




ある唯美主義者の肖像―ウォルター・ペイターの世界
富士川 義之
青土社
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※※※※※※※※※※※※



内容は、前半3分の1くらいが面白かった。と言っても、ひとまとまりの論文として
面白かったのではなくて(そこまでの知識がない)、反応出来る一文に時々出会えたという意味で。


   ペイターもまた、想像力が織りなす別世界への憧憬や渇望を作品創造に不可欠な
   跳躍台として活用していったのだった。


   自分の外に美しいものがあるということに、名状しがたい昂奮を感じ、
   美しいものとのかかわりに熱情を経験する。


   ペイターは、モナ・リザの魂の病患をキリシア彫刻の白い純粋性と対置させていた。
   宿命の女としての、過剰な自意識の病に苛まれた近代思想の象徴としての
   モナ・リザの病患。この病患や毒素を癒し克服すべき一種宗教的な力をもつ、
   神秘的な色彩として、白色は把握されていた。


明朗で清澄なギリシア彫刻。(青銅像はどうなんだ、という話にもなるが)
ペイターは「ルネサンス」において、ミケランジェロをルネサンスと近代を繋ぐ中間の鎖として、
ダ・ヴィンチを明確に近代人として捉えた。
ラファエロはむしろルネサンスに属するという。無邪気なラファエロ。
美しいものは神に近いとシンプルに信じられたラファエロ。
モナリザの不気味さは、近代人の苦悩か。もう無邪気なままではいられなくなった近代人の。

ローマ彫刻は模刻に堕している。
ラファエル前派は、たしかラファエロ以前に帰れという主張だった。
つまり苦悩以前、場合によっては白痴美的と言われた時点まで戻れという。
そのわりにラファエル前派には不安が漂っているように思うが。
ギリシャ彫刻には不安はないよね。アルカイックスマイルがこちらを不安にさせる場合があるけど、
それでも物体自体は苦悩を宿してはいない。




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