プラムフィールズ27番地。

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◇ 森見登美彦「新釈走れメロス 他四篇」

2023年07月10日 | ◇読んだ本の感想。
長年、パスティ―シュとかパロディの存在意義を疑問に思い、
考え続けて来たのだが……この本を読んで結論が出た。
好きな作家が書けばパロディも面白いのだ。

今までパロディ、パスティ―シュって面白いの?という方向から読んでみた本で
面白いと思った本はあまりなかった。せいぜいまあまあ面白い方かな、程度。
だが本作は、わたしの好きな森見登美彦の作品として読んだので素直に楽しめた。

わたしは新釈という部分を読み落としていて、ぼんやりと単に現代語訳だと思いながら
読み始めたんだよね。よく考えると現代語訳するほど昔の作品じゃなかったですね。

「山月記」「藪の中」「走れメロス」「桜の森の満開の下」「百物語」
のそれぞれパスティーシュ。それもいつもの森見ワールドのフィールドである
京都の腐れ大学生の世界線。いや、なかなか面白かった。

特に「山月記」がね。世界線の設定とオリジナルの設定が完璧に噛み合っていて、
いつものそこはかとなく侘しく、しかしユーモラスな森見ワールドとはちと違い、
原作の「山月記」に近い話になっていたなあ。これが一番完成度が高いと感じた。
これを頭に持って来たのは効果的かね?
この完成度の高さは、締めに持って来た方が良かったかも。

「藪の中」はちょっと疑問。
むかーし読んだけど、実際に何が起こったかわからないのが肝であって、
こういう風に、三者三様の主観がすれ違うというのは普通の話なんじゃないかなあ。
主観の交錯は全然よくある話だからね。

「走れメロス」はいつもの森見ドタバタワールド。
「走れメロス」とはいってるけど、そこまでメロスではない。
でもわたし、太宰の「走れメロス」読んだっけかな?
小学校の学芸会で出し物としてやったから読んだつもりでいるが、
もしかしたら読んでないかもしれない。

「桜の森の満開の下」は、タイトルとしてすごく魅力的だと思ってるんだけど、
オリジナルを読んだことはありません。坂口安吾は多分読んだことはない。
そのうち読むつもりでおります。
話としては一番文学的だったかもね。森見登美彦は元々レトロな作品を書くが、
これは昭和初期の文学の雰囲気がにじむ。

ところでずっと思ってたんだけど、桜の森って実はあり得ない気がしない?
桜は森にならない。
そして「満開の下」も変な気がするのよね。「満開の花の下」が必要な気がする。

「百物語」も読んだことはないかもなあ。鴎外は何本か読んだが、
初期作品の他は、とにかく「澁江抽齋」がひたすら退屈だった印象が強い。
本作は、そんなに……かなあ。
オリジナルを読んでない作品は、やっぱりパロディとして読めないから、
面白さを感じるのがそもそも難しいよね。

でも全体的には面白かった。
森見登美彦は不器用な作家だと思い続けていたんだけど、
実はけっこう器用かな?



千野帽子による解説がちょっと……。
これは「夢十夜」のパロディで書いてる。「夢十夜」は大好きな作品だし、
面白くはあったけど、他人のパロディ短編集の解説をパロディで書くのは
少し軽薄に感じたな。ついついやってしまいたくなる気持ちはわかるんだけどね。




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