プラムフィールズ27番地。

本・映画・美術・仙台89ers・フィギュアスケートについての四方山話。

◇ 三島由紀夫「金閣寺」

2010年03月18日 | ◇読んだ本の感想。
書くほどの内容はないかもしれないが、一応読んだのでちょこちょこっと書いておく。

三島2作目。前回が「仮面の告白」だったので、告白文学2連発。
三島由紀夫、どんだけ告白好きやねん!と言いたくなったが、それは単に選んだ作品のせいかもしれない。

でもわたしは、三島由紀夫って“わかって欲しい”系の作家のイメージがありますけどね。
いや告白文学しか読んでないから、そりゃそーなんだけど、
「俺ってこういう奴なんだ。わかってくれよ」的なクサミを感じる。自己愛のニオイ。
もちろん文は人なりでどうしても人間が表れるし、そこを否定しては
文学も何もあったもんじゃないけれども、……ちょっと甘えっ子?
おばあちゃん子は三文安い的な甘さを感じる。(人のことは言えないが。)

この人は。埒もない空想で楽しむ、ということは出来なかった人なんじゃないかな。
そういう空想を楽しむには、現実的過ぎた。
そんな現実的過ぎる人が小説を書いたから、こういう観念的な小説になっているんじゃないかなー。
わたし自身は小説というより物語が好きで、物語はどうしても埒もない空想力が必要なんだよね。
そういう空想が出来れば物語向きの書き手だし、
空想を世界創造の楽しみとして捉えられるなら幸せな書き手だ。彼はそういうタイプではなかった。
ま、三島が物語向きでないのは別にあげつらうことではなく、
わたしが文句をつける必要はないけど。



ちょっと前記とは繋がるような繋がらないような方向に話はずれるけど、
本文中にこういう文章があった。



   彼が見たまま感じたままを言っていることがよくわかった。彼は自分の単純な強い目に
   映る事物に、ことさら意味を求めたりすることはなかった。意味はあってもよく、
   なくてもよい。そして和尚が何より私に偉大に感じられたのは、ものを見、
   たとえば私を見るのに、和尚の目だけが見る特別のものに頼って異を樹てようとはせず、
   他人が見るであろうとおりに見ていることであった。和尚にとっては単なる主観的世界は
   意味がなかった。


ここは作品の中で、それほど重要な部分ではないんだけれど。
でも、わたしはここに作家としての弱音を見たので気になった。

作家なんてもなぁ“自分の目だけが見る特別のものに頼って”文章を紡いでいく商売だよね。
「わかるわかる」系の話ばっかり書いてる人なら別だが、他人と同じことだけ書いていても
仕方がない。むしろ積極的に他人が見ないものを探していかなければ張っていけない商売だ。
それなのに「他人が見るであろうとおりに見ている」和尚をほぼ憧れに近い書き方で肯定する。
それは弱さであり、甘さであり……そこは羨んではいけない部分なんじゃないかい?

この人は、もしかして、自分の思考に食傷していた人なのかもしれないなあ。
つい観念的に流れてしまう思考の。いわば自分の頭でっかちさ加減に食傷していた。
自分の肉体の貧弱さを克服すべくボディビル?の方向にいったのも、
「頭」に対する「体」への補完作用ではないかと。

でもここで、方向をボディビルではなく、なんちゃってでもいいから農作業とかの
実質が伴う、体を使う(及び自然と関わりあう)方向へ向けられれば、
もっと健康的に生きられたかもしれない。
やっぱり太陽の光を浴びることは大事ですよ。



まあ、以上はタワゴトですけどね。
読んだのがたった2冊、及びその解説で書かれていたことだけで何かが言えるわけはない。
あれ?「金閣寺」の感想には全くなってないぞ。




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作品とは関係のないことだけど、この文庫本の表紙。
速水御舟「炎舞」の部分だそうだ。「炎舞」ってあれですよね、火に蝶々ですよね。
へー。あの絵から持ってきて、それなのに全く蝶々を使わないんだー。
絵としての肝は、炎とそこに惹かれてしまう蝶にあるはずだし、この小説の内容からすれば、
炎と蝶の部分を使っても相応しいと思われるのに、
新潮社装丁室はわざと蝶を外したんですね。炎部分のみを使った。

選んだ上での話なら、それは一つのセンスですな。渋い。蝶がない方が深いかもなあ。
わたしとして蝶部分を使って欲しかった気も半分あるが、あざとくなってしまうかもしれない。
「やるじゃん」と言いたい気もしている。




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