プラムフィールズ27番地。

本・映画・美術・仙台89ers・フィギュアスケートについての四方山話。

◇ ジョン・スタインベック「エデンの東 上下」

2014年08月30日 | ◇読んだ本の感想。
何年も前には、日々チェックしていた「今日のハヤカワさん」のブログ。
単行本が出て流行った頃だから、2008年くらいかな。なつかしいなあ。
ちゃんとまだ続いてたんだねえ。キャラクターも懐かしい。ノリや絵も変わってないなあ。

……と、そこで「恐ろしいほど面白い」とお薦めされていたのが「エデンの東」。
当時、課題図書リストに入れて、このたびようやく順番が回って来ました。6年ぶりくらいなわけだ。


恐ろしいほど、とまでは思わないけど、なかなか面白かったです。
スタインベックは「怒りの葡萄」を数年前に読んだが……まあわたしのキライなタイプの……
典型的な(と言えるほどあれこれ読んでない)、ドライで苦味が強い初期アメリカ文学。

でもこれは、同じくストーリーは苦味があるんだけど、書いてある内容に若干旨味(救い)があるので
読んでてもツラくなかった。純文学はせめてこのくらいの柔らかさでお願いしたい。


人間のカタログ。だと思ったな。
大勢の人間が出てきて、スタインベックはなかなか根気強く彼らを説明する。
善良な人も悪魔的な人もいて、その心情を丁寧に描く。そこに織り上げられる人間模様。


話のサイクルも相当長いし。一代記というわけでもでもなく、家族の年代記というわけでもない。
……というか、家族の年代記にすべきだったんじゃないか?と少々疑問。
トラスク家にはサイラスという暴君親父がいて、その息子にアダムとチャールズという
性質の全く違う兄弟がいて、そこでイロイロあって、
その後、アダムが魔性の女キャリーと結婚して双子を儲け、
またその双子、キャルとアロンが父世代をなぞるように父親の愛を求める……
いや?アロンはそんなに父の愛は求めていないか?

……そういう話だとわたしは思うのだけど、
それにしてはハミルトン家の立ち位置が何だかすっきりしないんだよねえ。
ハミルトン家は、むしろ読んでて愉しい部分なのだが(サミュエルが素敵)、
この話は徹頭徹尾、トラスク家の話として書くべきなんじゃないか。
それなのにハミルトン家のことも相当分量を割いて書いているから……
そこまでそっちを書くと話がぼやけるんじゃないかと思う。

しかも時々思い出したように、書き手が“ハミルトン家のサミュエルの娘、オリーブの息子”であることを
自己紹介するんだよね。この部分、さっぱり有効活用されてない気がするが。
実在の人物の話を小説として書いたとしても、ここで書き手の位置を紹介する必要は全くなかった気がする。
だって書き手がこの位置なら、キャルの心情もアロンの心情も、そこまで書けるはずないし。
何で最初から最後まで神の視点で書かなかったかね?
というより、神の視点で書いてるのに、なんで血縁関係を持ち出すかね?

まあわたしはこの話で聖書がそれほど大きな役割を果たしているようには見えなかったよ。
ましてやティムシェルがそこまでクローズアップされてるのは知らなかった。
カインとアベルは、あくまでモチーフに留まる気がするのだが。
わたしは親子の葛藤の話として読んだ。そのように読んで、面白く読めた。


小説には女性原理がないと旨味がない気がするんだけど、この作品で女性原理を担当しているのは、
――女性原理っていっても自分でもよくわからないから、母性と言い換えようか。
母性を担当しているのは中国人のリーだと思う。性別は男性だが。
やはり話の中に安心感を与えてくれるキャラクターがいないと好きになれないんだなあ、わたしは。




あ、それから「エデンの東」は小説よりも映画で有名ですが、映画と小説はまるで別もんですね。
正直、映画のストーリーを探しながら読んでいたら、映画の部分が出てこないうちに話が終わってしまった。
一般的に原作と映画はだいたい別ものになるのだが、これは存在として全く別もの。

例えれば、モナリザも切り取り方によっては……背景の風景部分だけを切り取れば、
モナリザの一部を使っているものではあっても風景画になるわけで。
だが風景画をモナリザだというわけにはいかないでしょ。そのくらいの別もの加減。
……もっとも「エデンの東」、映画を見たのは数十年前なのでそこまで覚えてないけどさ。




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ちなみに、早川さんのブログの本年8月15日と17日のピントずらしの花火の写真もなかなか。
人工的で面白い。きれい。お薦め。











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