以前、縁あって、からくりやオートマタ関連の本をさらっと漁ったことがある。
それで知った、からくり儀右衛門、本名・田中久重。
数年前の愛・地球博のため、彼が作った万年時計を復元するというプロジェクトがあったらしい。
こないだそのドキュメンタリー番組が再放送されていたので録画して視聴した。
いやー…………………………。
讃嘆するしかない。彼の作った万年自鳴鐘(万年時計)、その内部構造を見てみると。
なんていうのかな、主に活用されているのは歯車で、そういう意味では特段複雑怪奇という
仕掛けではないのだ。力の伝わり具合とかをCGで説明されると、なるほどなるほど、と納得できる。
が、これだけの数の歯車をかっちり組み合わせて、そこまで要らんやろという色々な機能を持たせて、
しかもその上で、螺子を巻いたら一年動きつづけたというんですよ。とんでもない。
基本は時計。wikiを参照して書き写すが、機能としては以下の八つ。
天球儀。
和時計。
二十四節気。
曜日・時刻の表示。
十干十二支。
月齢。
洋時計。
打鐘。
メインであるべき和時計は、昔の日本の不定時法に対応した時計という意味。
(単に和風デザインの時計という意味ではないですよ。)
不定時法は、昼と夜を日の入りと日の出で分けるから、
当然季節に従って「昼の一刻」「夜の一刻」の長さが違ってくる。
この部分を、人の手を加えずに変えて見せたというんです。
他の人が作った和時計も、当然のことながら不定時法に対応して作られたが、
それは「人の手で二週間ごとにテンプのおもりを移動させる」というような方法だったらしい。
(それだけが唯一の対応策だったのかどうかは未確認。)
これでは「自動」ではありませんな。
が、田中久重はこれに全く別な回答を与えた。
彼はペースを変えるのではなく、表示板の位置の方を季節に応じて自動で変えた。
……言葉で言うのは簡単ですが、これは鮮やかな発想の転換ですよ。
彼はこの実現のために特殊な形の歯車を考案している。こんな変な形によく辿りついたと思うほど。
現代の技術者たちも、その歯車を見てどういう働きをするかはよく調べないとわからなかったらしい。
CGで説明されて、はー、なるほどー、と画面の向こうとこっちであげる嘆声。
天球儀なんぞは、ほんとにハードルを上げるためにだけわざわざつけたようなもんで……
太陽と月の見かけ上の動きを模型で再現したもの。当然春夏秋冬で高度が変わる。
これもCGで動きを解説されて唸った。わりあいにシンプルな解決法だが、
歯車同士の組み合わせ、位置関係など、よう考えてある。
一年続けて動かすために、4メートルの長さで2ミリの厚さをもつゼンマイを作ったそうだ。
これは現在の技術でもその重厚長大さのため、製作に苦労する代物らしい。
力技の部分は力技なんだね。アイディアだけじゃなく。このメリハリも魅力だ。
が、ゼンマイが緩んで来た時に時計のペースを乱さぬために、また独特な形の歯車を作っている。
力技とアイディアの融合。美しい。
……こんな風に書いててもさっぱり田中久重の偉大さが伝わらないが、とにかく感動があるのだ。
出来ないことをやってしまうというその鮮やかさが。その知恵が。また何よりその挑戦が。
やはり驚き。そして嬉しくなる。「へーっ」と驚いて、目を瞠るのが好きだ。
楽しい心理状態。心躍る。
ところで、この復元に携わった技術者は、およそ100人いるそうだが、
中心となった機械部分の技術グループのおじさんたち(というよりおじいさんたち)の
表情が印象的だった。……みんなニタニタしている。
異口同音に「面白いですね~」と、コメントとしては実にありふれたものなんだけど、
言葉より彼らの顔が雄弁に物語る。
すごく嬉しい時の顔って、ニコニコじゃないんだね。ニタニタ。
やっぱり同じ技術者として、わたしの比じゃなく心躍るものがあるんだろうなあ。
「こんなん考えよったか!」と思えるのが楽しいんだろうなあ。
田中久重は、100年後、こんな風に自分の作品が大勢の人の目に見つめられることを、
夢見ていただろうか。
技術的な部分ばかりじゃなく、時計の造作の部分では伝統工芸の技術が力を発揮した。
蒔絵。螺鈿。彫金。おそらく七宝も。
幸せな物体だと思った。万年自鳴鐘。賢くて、美しい。技術と美を併せ持つ。
こんなものを残してくれたことが嬉しいよ。すごいぜ、からくり儀右衛門。
こういうのは実際に動いているところを見ないと感動がないけど、
この本は図版多いし、文章部分も面白いのでお薦め。
それで知った、からくり儀右衛門、本名・田中久重。
数年前の愛・地球博のため、彼が作った万年時計を復元するというプロジェクトがあったらしい。
こないだそのドキュメンタリー番組が再放送されていたので録画して視聴した。
いやー…………………………。
讃嘆するしかない。彼の作った万年自鳴鐘(万年時計)、その内部構造を見てみると。
なんていうのかな、主に活用されているのは歯車で、そういう意味では特段複雑怪奇という
仕掛けではないのだ。力の伝わり具合とかをCGで説明されると、なるほどなるほど、と納得できる。
が、これだけの数の歯車をかっちり組み合わせて、そこまで要らんやろという色々な機能を持たせて、
しかもその上で、螺子を巻いたら一年動きつづけたというんですよ。とんでもない。
基本は時計。wikiを参照して書き写すが、機能としては以下の八つ。
天球儀。
和時計。
二十四節気。
曜日・時刻の表示。
十干十二支。
月齢。
洋時計。
打鐘。
メインであるべき和時計は、昔の日本の不定時法に対応した時計という意味。
(単に和風デザインの時計という意味ではないですよ。)
不定時法は、昼と夜を日の入りと日の出で分けるから、
当然季節に従って「昼の一刻」「夜の一刻」の長さが違ってくる。
この部分を、人の手を加えずに変えて見せたというんです。
他の人が作った和時計も、当然のことながら不定時法に対応して作られたが、
それは「人の手で二週間ごとにテンプのおもりを移動させる」というような方法だったらしい。
(それだけが唯一の対応策だったのかどうかは未確認。)
これでは「自動」ではありませんな。
が、田中久重はこれに全く別な回答を与えた。
彼はペースを変えるのではなく、表示板の位置の方を季節に応じて自動で変えた。
……言葉で言うのは簡単ですが、これは鮮やかな発想の転換ですよ。
彼はこの実現のために特殊な形の歯車を考案している。こんな変な形によく辿りついたと思うほど。
現代の技術者たちも、その歯車を見てどういう働きをするかはよく調べないとわからなかったらしい。
CGで説明されて、はー、なるほどー、と画面の向こうとこっちであげる嘆声。
天球儀なんぞは、ほんとにハードルを上げるためにだけわざわざつけたようなもんで……
太陽と月の見かけ上の動きを模型で再現したもの。当然春夏秋冬で高度が変わる。
これもCGで動きを解説されて唸った。わりあいにシンプルな解決法だが、
歯車同士の組み合わせ、位置関係など、よう考えてある。
一年続けて動かすために、4メートルの長さで2ミリの厚さをもつゼンマイを作ったそうだ。
これは現在の技術でもその重厚長大さのため、製作に苦労する代物らしい。
力技の部分は力技なんだね。アイディアだけじゃなく。このメリハリも魅力だ。
が、ゼンマイが緩んで来た時に時計のペースを乱さぬために、また独特な形の歯車を作っている。
力技とアイディアの融合。美しい。
……こんな風に書いててもさっぱり田中久重の偉大さが伝わらないが、とにかく感動があるのだ。
出来ないことをやってしまうというその鮮やかさが。その知恵が。また何よりその挑戦が。
やはり驚き。そして嬉しくなる。「へーっ」と驚いて、目を瞠るのが好きだ。
楽しい心理状態。心躍る。
ところで、この復元に携わった技術者は、およそ100人いるそうだが、
中心となった機械部分の技術グループのおじさんたち(というよりおじいさんたち)の
表情が印象的だった。……みんなニタニタしている。
異口同音に「面白いですね~」と、コメントとしては実にありふれたものなんだけど、
言葉より彼らの顔が雄弁に物語る。
すごく嬉しい時の顔って、ニコニコじゃないんだね。ニタニタ。
やっぱり同じ技術者として、わたしの比じゃなく心躍るものがあるんだろうなあ。
「こんなん考えよったか!」と思えるのが楽しいんだろうなあ。
田中久重は、100年後、こんな風に自分の作品が大勢の人の目に見つめられることを、
夢見ていただろうか。
技術的な部分ばかりじゃなく、時計の造作の部分では伝統工芸の技術が力を発揮した。
蒔絵。螺鈿。彫金。おそらく七宝も。
幸せな物体だと思った。万年自鳴鐘。賢くて、美しい。技術と美を併せ持つ。
こんなものを残してくれたことが嬉しいよ。すごいぜ、からくり儀右衛門。
図説 からくり―遊びの百科全書 (ふくろうの本)
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こういうのは実際に動いているところを見ないと感動がないけど、
この本は図版多いし、文章部分も面白いのでお薦め。
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