歯周病は、嫌気性の菌によって起こる感染症で、発症には宿主側の因子が深く関わっています。
嫌気性の歯周病菌は、下部消化管内嫌気性菌に匹敵する大量の短鎖脂肪酸(SCFA)を産生し、SCFA が歯周組織および微生物に及ぼす影響があります。
1)SCFA、特に酪酸は、正常口腔プラーク主要構成菌である球菌の発育を阻害し、プラーク蓄積に関与するActinomyces の発育を著しく促進します。そのバイオフィルムは、病原性プラークへ誘導されます。
2)その結果、嫌気性の歯周病菌の増殖が、組織破壊が起こします。
3)組織内に浸潤したSCFA は、腸管粘膜とは異なり歯周組織内に停滞・蓄積します。
4)組織内に蓄積したSCFA は各種免疫担当細胞にアポトーシスを誘導します。
5)そしてさらに、感染が進行します。
6)組織内濃度が上昇した酪酸は、歯周病により上昇した血中TNF-α との相乗作用により促進されます。HIV 感染者では、重度の歯周病によりAIDS を発症する可能性が示されます。
7)成人の90%以上が不顕性感染しているEpstein-Barr virus は、再活性化により各種リンパ腫や上咽頭がんなどの原因となることが知られています。歯周病により種々のがん、シェーグレン症候群、全身性エリテマトーデスや関節リュウマチなどの自己免疫疾患、難治性全身疾患の発症が促進される可能性あります。
8)酪酸により歯周病は、口腔ガンの進展・転移にも関与する可能性が考えられます。これらの結果は、歯周病や歯周病原菌が新たな全身疾患の誘因となる可能性を示しています。
腸内細菌業の研究により、SCFA は生体にとって有益で重要な物質であることは間違いない。しかし、口腔では、SCFA がその濃度や組織の特性により、為害作用も含め、生体にさまざまな影響を与えていることを示しています。
(腸内細菌叢でのSCFAは、有害物質からのバリア機能の強化、発がん予防、肥満予防、糖尿病予防、食欲の抑制、免疫機能の調節など)
参考文献:第17 回 腸内細菌学会 シンポジウム2‒5
口腔内短鎖脂肪酸の歯周病と全身疾患へ及ぼす影響
落合邦康( 日本大学歯学部・細菌学,総合歯学研究所・生体防御部門)ほか
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