男たちは、大半が妻子ある身だった。世俗的な価値基準を持ち出せば、安定した仕事と家庭を持ち、かなり恵まれた環境にある者も多かった。中には、職業として他人の不審点やウソに目を光らせるべき男たちまでもが含まれていた。しかも美由紀は、でっぷりと肥えた三十代半ばの女で、お世辞にも眉目麗しいなどと評せるようなタイプではなかった。
なのに男たちはいったいなぜ、美由紀のような女に惹かれ、巨額のカネまで貢ぎ、次々と命を落としていってしまったのか。鳥取という地方都市の寂れ切った歓楽街に漂う太ったホステスに魅せられ、ついには奈落の底へと転げ落ちていったのは、いったいなぜだったのか。
「誘蛾灯 鳥取連続不審死事件」青木理 講談社 2013年
富翁