通帳を見た妻、絶叫。夫婦で平穏に暮らす年金月21万円・貯蓄2,500万円の67歳元会社員がすべてを失い「暗黒の老後」へ転落したワケ【FPの助言】
仕事に身を捧げていればいるほど、退職してから虚無感や退屈感にさいなまれるという人も少なくありません。しかし、そうした感情を紛らわせるために刺激を求めたことで、老後の資金が瞬く間に底をついてしまうことも……。そこで本記事では、ファイナンシャル・プランナーの青山創星氏が、退職後に友人からの誘いで投資を始めた榎戸恭平氏(仮名・67歳)の事例とともに、老後の資産管理の重要性について詳しく解説します。 ▼【早見表】年金に頼らず「1人で120歳まで生きる」ための貯蓄額
「退職後の虚無感」が招く破滅への第一歩
榎戸恭平(えのきど・きょうへい)氏(67歳)は、40年勤めた大手電機メーカーを定年退職して2年。年金は夫婦で月21万円、貯蓄は退職金の残りも含めて2,500万円ありました。 妻の洋子さんと二人暮らしの日々は、平穏そのものでした。かつての仕事への情熱も今はどこへやら。朝起きて食事をして、テレビを観て、また食事をして、昼寝して……。 同じような毎日の中で、「退屈だな」と、ふと思う瞬間が増えていました。洋子さんは趣味の編み物に没頭しているのに、自分は何もできずあっという間に1日が過ぎていきます。このまま年だけ取っていくのだろうかと考えていたある日、学生時代の古い友人、木村さんからメッセージが届きました。 「久しぶり、最近どうしてる? 久々に会おうよ」 毎日暇な榎戸氏は、もちろんと答えました。まさか、この一通のメッセージが、彼の人生を根本から変えることになるとは夢にも思いませんでした。 木村さんは、競馬、競輪はもちろん、FXや仮想通貨、バイナリーオプションなど、あらゆる投資に手を出す男でした。最初は興味半分で話を聞いていましたが、木村さんの華々しい成功談に徐々に惹かれていきました。 そして後日、榎戸氏は競馬に挑戦してみることにしました。退屈な毎日にちょっとの刺激があってもいいだろうと考えたのです。すると驚くほど的中し、わずか10万円の投資で30万円が簡単に手に入ったのです。 いわゆるビギナーズラックでしたが、「自分には才能があるのかも」と考えた榎戸氏は、徐々に賭け金を増やしました。勝つか負けるかの刺激にすっかりはまってしまったのです。しかし、勝てたのは最初の何回かだけ。次第に負けが込んでいきました。その負けを何とか取り戻そうと、競輪、オートレースと、次々と手を出していきました。 そうして、長年にわたって汗水流して貯めてきた老後資金を食いつぶしていきました
老後資金が蒸発…一攫千金の夢が家族を崩壊させるまで
とどめを刺したのは、バイナリーオプション取引でした。木村さんから「うまくいけば相当儲かる」と吹き込まれ、大きく減らしてしまった貯蓄を取り返そうと焦った榎戸氏は、貯蓄の残りのほとんどを投入しました。その結果、あっという間にすべてが蒸発してしまったのでした。 様子のおかしい夫に違和感を感じていた洋子さん。ある日、年金引出しの際に通帳を見て絶叫しました。 「何をしてるの! 私たちの老後はどうなるの!」 驚愕と怒りが入り混じった叫びでした。榎戸氏は我を忘れた自分にようやく気づきましたが、すべては遅すぎました。
取引1回で平均5%の損失!?「バイナリーオプション」の仕組みとは
バイナリーオプションとは、通貨の値動きを非常にシンプルに予測する投機的な取引方法です。具体的には、ある通貨が「上がる・上がらない」という2択(バイナリー)で予測を行います。<取引のルール> 予測の時間枠が事前に決められています(例:2時間後)その時点で自分の予測通りに値動きしていれば勝ち予測が外れれば負けとなります具体的には、たとえば、1,000円を賭けた場合、 ●勝った場合:900円の利益(ペイアウト率90%) ●負けた場合:1,000円の全額損失 <確率の仕組み>勝ちと負けの確率は50%:50%となります。最初は「ビギナーズラック」で勝ち負けに偏りがあるかもしれませんが、長期的に見ると半々の確率に収れんします(大数の法則)。 <期待値の計算> 期待値 = (900円 × 50%) + (-1,000円 × 50%) = -50円 つまり、1回の取引毎に平均すると掛金の5%(=50円÷1000円)を失うことになります。 <重要な裏側事情> ペイアウト率(元本に対するリターンの割合)は常に100%未満負けた場合は投資額の全額を失うビッドとオファーの差による構造的な損失ビッドとオファーの差によって、取引のたびに、わずかずつではあっても必ず業者側に利益が生じ、取引者側には損失が生じる仕組みになっています。コンビニでジュースを仕入れる価格と売る価格の差に似ています。 <元本の減少メカニズム> 取引を重ねるごとに、元本は徐々に減少していきます。
1回目:100万円 × 95% = 95万円
2回目:95万円 × 95% = 90.25万円
10回目:約63万円
90回目:約1万円
実際には、ビッドとオファーの差によってこれよりも早く元本はゼロに近づくこととなります。バイナリーオプションは、娯楽ならともかく、収入源として考えるのは適切ではありません。胴元(業者)は常に儲かり、ギャンブラー(取引者)は総体として必ず損をする構造になっているからです。 友人の木村さんはその当時は儲けを得ていたようですが、取引をしてきた中では大損をしていた時期もあった可能性もあり、素人の榎戸氏が安易に手を出したのは大きな間違いだったのです
榎戸氏の二の舞を踏まないために…行動経済学による対応策
榎戸氏の暴走によって家庭は崩壊し、夫婦は「熟年離婚」という結末を迎えました。財産分与、年金分割、すべてが冷徹に進められていきます。自宅は売却しましたが、資産価値は低く、夫婦の手元に残ったのはそれぞれ数百万円程度です。洋子さんは、息子の援助を受けながら小さなアパートを借りることになりました。 榎戸氏も、わずかに残された年金月12万円ほどで1人で暮らすことに。ひたすら悲嘆にくれています。 なぜ榎戸氏はこのような事態に陥ってしまったのか、そして、こうならないためにはどうしたらよかったのか。行動経済学的の観点からの心理効果や認知バイアスとそれに対する対応策を図にまとめました。
老後資金を失わないための重要なポイント
1. 退屈は危険な誘惑への扉となります。
退屈や孤独感は、人を危険な行動へと誘う潜在的なリスクがあります。これを防ぐには、社会参加や新しい趣味、学習を通じて心の充実を図ることが大切です。
2. 投機と投資は根本的に異なります。 バイナリーオプションは投機のほんの一例です。投資は価値創造と長期的成長を目指すものであるのに対して、投機やギャンブルはゼロサムまたはマイナスサムゲームです。プロ以外が勝つ可能性は極めて低いことを認識する必要があります。
3. 一攫千金の夢には危険が潜んでいます。 確率についての無知は経済的破綻を招く最大のリスクです。投機やギャンブルに確率・統計の知識なしに参加することは、自らを経済的危機に追い込む可能性が高いことを理解しなければなりません。
4. 老後資金の管理は慎重に行う必要があります。
加齢に伴う認知機能の低下は、財務判断に大きな影響を与えかねません。専門家に相談し、定期的に財務状況を評価することも重要です。投機やギャンブルでは、常に業者側に有利な仕組みが組み込まれており、長期的には取引者が損失を被るリスクが高いことを理解する必要があります。
5. 家族との信頼関係は何よりも大切です。 孤独感や経済的不安は、家族関係を脅かす可能性があります。家族との相互理解やコミュニケーションにより、心理的バイアスに惑わされず、冷静で合理的な判断を共有することが重要です。 老後の幸福を刹那的な興奮に求めると、取り返しのつかない破滅的な状況に追い込まれることがあります。老後の幸福は、安定と成長、そして愛する人々との絆から生まれるということを再確認し、幸せな老後の生活作りに活かしていただければと思います
- この「孫育て」、いつまで続くのか…年金月25万円・平穏に暮らす夫婦の生活が“娘一家の引越し”で一変。疲労困憊の日々に「こんな老後のはずでは」【CFPの助言】
- 年金の繰下げなんてしなきゃよかった…月13万円が18万円に増えた70代男性、安泰の老後を送れるはずが「取り返しがつかないことをした」と涙したワケ
- ばあちゃん、ウソだろ…20年前に祖父から5億円を相続した90歳祖母が死去。遺産を調べた相続人〈35歳孫〉がびっくり仰天!記録を「思わず二度見」したワケ【相続の専門家が解説】
- 元サラリーマンなら平均年金「月17万円」だが…〈60歳・トラック運転手〉が自虐する、落胆の年金見込み額「40年間休まず走って、たったこれだけ」
- こんな家買わなければよかった…。7,000万円で二世帯住宅を購入した68歳元会社員、幸せを噛みしめた3年後に娘夫婦と怒鳴り合いの大喧嘩→「地獄の同居生活」へ【CFPの助言】
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます