昔、清明節の日に西湖の湖底から、花にも似た玉のような二人の娘がひそかに浮き上がってきた。彼女たちは、元来、蛇の精であったが、人間界の華やかな様子に憧れて、修練を積んで人間の姿になったのだった。二人は、白素貞と小青と名乗り、西湖のほとりに遊びに来た。
二人は、あちこちと遊覧している間に、許仙という名の、上品で、優雅な青年と知り合った。それ以後、彼ら三人はしばしば会うようになり、特に、白素貞と許仙は、気が合って、どんどん仲良くなっていった。そして、白素貞と許仙の二人は、夫婦の契りを結び、「保和堂」という薬屋を開いた。
「保和堂」はどんな難病も治したので、商売はますます繁盛した。それで、遠い所からも白素貞を訪ねてやってくる人がどんどん増えてきた。人々は白素貞のことを、親しみを込めて白娘子(バイニャンズ)と呼んだ。
白娘子が人々の病気をよく治すので、近くにあった「金山寺」では、焼香して菩薩にすがる人がずいぶん減り、お供え物も同じく減ってしまった。これを面白く思わなかった金山寺の法海和尚は、ある日、「保和堂」へ様子を見にやってきた。すると、ちょうど、白素貞が人々の病気を治しているところであった。その様子を見て、法海和尚は白娘子が蛇の化身であることを見破った。
法海和尚は少しは妖術が使えたが、心根がよくなかった。白娘子の正体がわかった法海和尚は、白娘子と許仙の夫婦を引き離し、「保和堂」をつぶすことばかり考えていた。
そうして、こっそりと許仙を寺に呼び出して、寺の中に閉じ込めてしまった。「保和堂」では、白娘子が気をもみながら、許仙の帰りを待っていた。彼女の夫を想う気持ちは切実で、夫が法海和尚に引きとめられていることを知ると、すぐに小青を伴って、金山寺へ行き、法海和尚に許仙を帰してくれるように哀願した。しかし、法海和尚は承知しなかった。そこで、彼女はしかたなく頭から簪(かんざし)を抜き、風に向かって一振りした。すると、滔々たる大波が起こり、まっすぐ金山寺へ向かって迫ってきた。
法海和尚は、金山寺が水に飲み込まれそうになるのを目の当たりにすると、あわてて、袈裟(けさ)を脱ぎ捨て、それを長い堤防(ていぼう)に変え、寺の門の外で大波を遮った。水が漲(みなぎ)って、一尺(いっしゃく)になると、堤防も一尺高くなる。一丈になると、堤防も一丈の高さになるのだった。波が大きくなっても、水は堤防から溢れることはなかった。それに、白娘子は身重だったので、法海和尚にはどうしても歯が立たなかった。
そうして、とうとう、法海和尚は白娘子を金の鉢の中に入れて、霊鵬塔の下に閉じ込めてしまった。こうして許仙と白娘子は別れ別れになってしまったのだった。
その後、小青は金山寺から逃れ、数十年山奥に篭って修練し、最後には法海和尚を破って、蟹(かに)に食べさせてしまい、白娘子を救い出したという。それから、白娘子と許仙はその子供たちといっしょに幸せに暮らし、二度と離れ離れになることはなかったということだ。
《中国故事「白蛇伝」》
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