あちこちで紫陽花が人気を呼んでいる。
観光客がどっと押し寄せる所もあれば、逆にあまり知られずに、ひっそりと咲く紫陽花たちもある。
この雨引観音は後者の一つで、平日ともなればそれは参拝の人はまばら。でも私はどういうわけか、関東ではこの雨引観音の紫陽花が一番気に入っている。訪ねるのは今回で15回目ぐらいだろうか。いや、桜やその他の時期を合わせると20回は超しているかもしれない。去年はたまたまその桜の季節と、秋に訪ねた。
ここの魅力は紫陽花だけではない。というより、紫陽花だけなら関東にも他に良い所はいくつかあるだろう。
私の第一のお気に入りの理由は、全体的な風情である。むずかしい話になってしまうが、具体的にいうと、山門、石段、鐘楼、仁王門、本堂、多宝塔などの、まわりとのバランス。そして、孔雀の自由にあちこち歩きまわる姿。アヒルや鴨やチャボもしかり。池に泳ぐ鯉たちや亀。そして、高台から関東平野を見下ろす景色の気持ち良さは抜群である。
その折々のところに紫陽花が咲いている。
雨引観音は正式には雨引山楽法寺。子育て·安産として関東屈指の寺だろう。創建は587年というから、1430年も前のこと。そんな大昔にどうしてこんな山の高地に建立したのか、今となっては知るよしもないが、考えればまことに不思議なことである。
このあじさい寺の石段をしっかりと今踏み進む。
今回も、今度また来られるのだろうかと自問自答しながら。
雨の予想10パーセントという梅雨の一日。色とりどりの3000株の紫陽花を、目と心に焼き付かせながら。
「心に残る旅(29)雨引観音、風情あるアジサイ名所」