小田実氏の572ページもある分厚い本を読んでいる。まもなく読み終えるが、この本はハンパではない。なにせ全部二段書きで、しかも小さい文字。根気のいる読者なんだろうなと自分に言い聞かせている。
そのなかに与論島の部分が出ている。わずか9ページではあったが、なつかしさが漂い、しばし昔の自分に戻ったことがうれしい。
与論島を仕事で訪ねたのはずいぶん前のこと。あれからもうどのくらいたっているかと指折り数えてみる。
6月に沖縄に飛び2泊したあと、そこから船で渡った。大きな船は港に寄せられないので、ハシケに乗り換え港まで行く。それは小さな舟だったことを覚えている。
与論の海はきれいだ。サンゴ礁と花の島だけあるなと何度も思う。あちこちに南国を思わせる花が咲き乱れ、さとうきび畑も印象に残る。たしか一日目に、やや年齢の上の宿のご主人と「与論献奉」というおもてなしを受けたことが特別に今となっては思えてくる。聞いた時は与論憲法とばかり思っていたが。
そして翌日は引き潮のときにだけその姿を現す「百合が浜」。同行した仲間と一緒にぽっかり浮かんだその渚を思いきり楽しんだ。
名前は忘れたが、散歩がてらの、宿の近くの海もすばらしい。
その日は早めの夕食後に与論城跡に出かけ、地元のさまざまな話を聞きながら酒を酌み交わし、いろんなことを教えてもらった。与論城は完成することなく終わったようだが。宿のご主人の話は私を惹きつけてやまなかった。たしか南風荘という名の宿だったが。
島の人々はみんなこんなふうに優しい人ばかりなんだなとつくづく思えたことも今は昔。もう二度と尋ねることはないとは思う与論島。
旅行の職業につかなければ決して行くことのなかった所だと今となってしみじみ思う。
「心に残る旅(30)与論島の思い出は与論献奉と城跡」