小雪がちらつく、ひなびた里。
晴れているのに、風に舞うような雪。
師走に湯西川を訪ねるのは初めてかもしれない。都心は人も車も街並みもあわただしいのに、そんなことはおかまいなしとばかりに雪は降りつづく。
部屋からの深々という眺めは、まるで山に閉ざされた広がりのない別世界を思わせるほどの静けさ。日が落ちて、物音もおさまり、部屋の窓からの雪がますます旅情をかきたててくれる。こういうのを風花というのだろう。
桓武平氏の流れをくむ部落の湯西川。
そこの、とある大手ホテルの御曹子と知り合ったのは二十代の後半だったろうか。キリッとした顔立ちで、まるで若武者を思わせるようなその姿に私は一瞬ハッとしたものであった。その後何度となく東京とこの湯西川の地で酒を酌み交わしたものの、惜しいことに彼は四十代前半で他界した。
この地は平家の落人部落で、鯉のぼりもたてない風習が残っておる、などと彼から教えてもらったのも今は昔。同じ大学であり、仕事に対する考え方も意を同じくする部分が多く、良き友人であり先輩であった。
そんなことをこの部屋から思っている。
今日は伊東園チェーンホテルにお世話になるが、この地に何度来たのかとあらためて指を折ってみた。十数回くらいだろうかなどと思ってみる。しかしこの地の伊東園ホテルには今夜が初めての宿泊。伊東園チェーンになる前には仕事でこの宿に宿泊したことはあるが。
こういうひなびた温泉に来て、昔のことをいろいろ思ってみると、なぜかセンチになってくる。
私ももう若くはないのだから、仕方のないことだろうと思うし、それでいいのだとも思ってくる。
頭の片隅では、これから旅仲間を連れてこの地に再訪しようなどと、もう次の遊びのことがかすかに浮かんでくる。
「心に残る旅(37)湯西川温泉の雪風情」